日頃から短距離から長距離にいたるまで、走りにはとても興味をもっています。
経験者が指導することはもちろん正しいでしょうが、違ったやり方があってもいいのでは?と常々思っています。
例えば身体の仕組みを知り動きを深く読み解くことで、速く走れる別のポイントが見つかるかもしれません。
そこで《現在までに速く走るための指導ではまったく目を向けられていないポイント》に着目することにしました。
観るべきは走る際の○○○○ですが、それは次回に譲り、今回はなぜそこに目を向ける必要があるのかまでをお話しします
ハイ・スピード・スプリント(HSS)の考え方が変わり、短距離から長距離に至るまで走ることが今よりもっと楽しくなればよいですね(^_^)
Contents
速く走るコツの中身とは?
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「速く走るコツ」は様々な解説をみても次の3つに大きく分けられるようです。
1.良い姿勢
2.しっかりした腕振り
3-1).足の回転数
3-2).広いストライド
良い姿勢
「姿勢が良ければ速く走れる」
とはある著名な元陸上400mH選手が言った言葉です。
子どもたちの多くは、正しい姿勢を知らないために「走り方がわからない」とのこと。
ならば正しい姿勢を知っていたら「走り方はわかるのか?」といえば、やはりそうはいかないようです。
しかしまずは正しい姿勢を身に付けることが速く走れることに繋がるため、この元400mH選手はが以下のように紹介しています。
寝転んだ状態でできるだけ身体を地面にくっつける方法。「背中をぴったり地面にくっつけて、なるべく隙間をなくします。寝転んだだけでは、腰やヒザの裏などいくつか浮いてしまう場所があるのですが、ここも完全につかなくても地面に近づけるようにします。この状態が“まっすぐな”状態。これを覚えて、立ったときに再現すればいいのです」。
う~ん・・・、これは身体の仕組みや動作の操作性から観ればたいそう違和感がありますね。
特に「腰が(自然に)浮いてしまう」といっているのにそれを「完全につかなくても(なるべく)地面につけるように!」というのは無理矢理感満載のような気が・・・。
さらに驚くのは「この“まっすぐな姿勢”を崩さずに走るようにすること」って!えっ!?
正直これでは解剖学的肢位(人が立位姿勢をとる際の標準的な姿勢)からもかけ離れ、“動きにくい”体勢で走るようにになってしまうと思うのですが・・・。
実際にどういう姿勢で走っているのかをみれば一目瞭然でしょう!
スプリンターの背中を比較してみたら・・・
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“真っ直ぐな姿勢”とは違う黒人スプリンターたちの走り姿勢
横から観れば違いは明らかです。
黒人スプリンターは背中が凸凹しているのに日本人のそれは割とのっぺりしています。
黒人スプリンターの背中は上背部と臀部と腿裏が凸って下背部は凹んで、いわゆるたいそうなメリハリがあります。
そりゃぁ、筋肉がついてるから凸凹してるんだろっ!と言われそうですが、日本人でも一般人だって腰のあたり(下背部)は床にはぴったりつきませんよ。
もしぴったりと床につければ体の機能としては当然、上背部や頭が浮くか床から離れやすくなるものです。
姿勢について語っている先の元400mH経験者のお答えは、ものの見事に黒人スプリンターの背中とはかけ離れたものになっています。
凸凹メリハリの背中を持つ黒人スプリンターが主要国際大会のファイナリストなんですけど、この事実をどう受け止めているのでしょうか。
「仰向けで背中全部を(なるべく)つけたこの“まっすぐな姿勢”を崩さずに走るようにすること」・・・、その真意の程は如何なものでしょうかね。
しっかりした腕振り
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多くの走りのレッスンでは腕振りを重要と考えてその練習をします。
でもその腕振りに対する考え方にもやはり違和感はあります。
腕を大きく振るのは速く走る上で必要だと思いますが、指導する側の多くは腕を振る時に前に“大きく”振っています。
指導する側も「腕を大きく振る」ことに目がとらわれがちで、腕振りの本当の意味を理解していないように見えてしまいます。
ジャマイカのトップスプリンター、ウサインボルト選手は特に腕振りが上手です。
彼は前に腕を持ってくるときには長い腕を小さく折りたたみリズムをとるために使っています。
一方で後方へは素早く大きく腕を振っています。
その大きさは肩と肘の角度が直角(90°)になるほどです。
速く走るためには後方への大きく素早い腕振りが必要になります。
その意味で例えばサニブラウン選手はまだまだ改善の余地があるでしょう。
9秒を切って世界と勝負するなら今の前方への腕振りが目立つスタイルではなく、ボルト選手のように前側は腕を小さく折りたたむコツをつかむべきです。
足と足の幅と回転数
足の回転を速めること、そして足と足の幅、いわゆる歩幅(走るから走幅と言えば良いのか?)を広げることが、速く走るための最も大切な要素です。
足の回転はピッチ、足から足までの幅はストライドという表現をします。
ピッチとは右足/左足を交互に移動させることで、いわゆる脚の回転数を現します。
通常ランナーは回転数の多いピッチ型か、足から足までの幅が広いストライド型に分けられます。
回転数がそこそこで(100mの場合だと)特に60m以降にストライドが伸びれば理想的なスプリンターと言えるでしょう。
ピッチとストライド、どちらにも関係しているのが腿を(ある程度)あげる動作と体にあるバネを使った走りです。
日本人と「腿上げ」の関係
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腿上げについては常に妙な誤解が付きまとってきました、少なくともTM鈴木はそう捉えています。
腿上げがしっかりとできれば速くなるわけではないのです。
ではなぜ腿上げをするのでしょうか?
真意の程を確かめてみましょう!
腿上げの過去を振り返る
昔は極端に腿を上げる訓練が日本で流行りました。
特に40代以降の陸上経験者ならだれもがやっていた練習ではないでしょうか。
今考えると当時の指導は腿を上げるという行為にばかり目がいきがちで、走る際の姿勢が崩れることは問題視されませんでした。
腿を極端に上げすぎれば体幹を含めた全体の姿勢は当然崩れてしまうのですが、その事実には気付かずに腿上げという行為のみの練習が横行していたのです。
特に10秒前後で勝敗が決まってしまう短距離では、わずかに姿勢が崩れただけで勝負はそこで終わってしまいます。
腿上げ練習はピッチを速めストライドを広げるためのひとつの練習方法として使われたのかもしれません。
この腿上げ、今はそれ程重要視されてはいませんが、それでも短距離の練習をする際は必ずと言っていい程加えられる種目です。
なぜなら今はこの腿上げの意味合いが違っているからです。
高くあげない腿上げで地面の反発力を利用
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昔はピッチ(回転数)をあげるためにどうしても必要な動きとされてきました。
その上げ方も目一杯!といった指導がされましたが、現在は昔のように無駄に腿を上げることなく「前方移動の姿勢を崩さない範囲で程々に!」という条件の元で行われています。
その目的も地面からの反発力をもらうための必須動作として捉えられているのです。
地面からの反発力とは、地面をバンと蹴った際に発生する、その蹴る力と同等の弾む力(弾性エネルギー:Ground Reaction Force)のことで、この反発力が強ければ強い程いわゆるスーパーボールのような弾む走りが可能となるのです。
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弾性エネルギーが大きくなればストライドは自然に広がります。
地面を勢いよく蹴るためには足を(なるべく)高いところから勢いをつけて降ろす方がそれこそガツンといった具合に地面を足裏で“叩く”ことができます。
それゆえ腿を(姿勢が崩れない程度にある程度)高く上げて、足と地面との距離をとることが必要になるというわけです。
反発力を生む人のバネ機構
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しかしここには欠点があって、腿をあげて地面を勢いよく蹴ったとしても元々のバネの能力に差があれば走り方にその弾性エネルギーが反映されません。
バーンと勢いよく地面を蹴りその分の弾性エネルギーを使えるためには以下の条件が必要です。
①アキレス腱/膝蓋腱/ハムストリング筋腱移行部の腱を強靭にする
②抗重力筋を含む姿勢維持筋群の弾性耐性を強める
①②共に黒人スプリンターは非常に強く強力な腱・筋のバネ機構を持っています。
これが彼ら/彼女らがアジア系/アングロサクソン系人種に比べて爆発的なスピードが要求されるスポーツで優位に立つひとつの理由です。
①の強靭な腱、または筋腱移行部というのは最近の科学的トレーニングでも鍛えることができるとの報告があり、実施に現場にもその方法が反映されています。
②の姿勢維持筋群の弾性能力を高めるには特にネグロイド人種の骨格特性である骨盤の傾斜角が重要です。
体感していない技術
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*1:ASIS;上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)前側に位置する腸骨の骨の出っ張り
*2:PSIS;上後腸骨棘(じょうごちょうこつきょく)後側に位置する腸骨の骨の出っ張り
*3:黄色線;地面との平行線
真横からみて骨盤が前下方に傾いている状態(image1)で走るってことですね(^_^)
でもこれが日本人には難しい、いや!実に大変なことなのです。
なぜかといえば骨格や関節の形上そういうふう(前下方にしっかりと傾くよう)にできてないからです。
そのどちらかといえば中間位に近い形状ながら、大腰筋を中心とした周りにある筋肉でしっかりと前下方に傾くようにしていく必要があるのです。
そしてそのノウハウを確立しているのはおそらく世界でも私、TM鈴木だけかもしれません。
この骨盤前傾位角(Anterior Pelvic Tilt Angle:APTA)と走りの関係については次回紹介しますね。
今回はこの辺で!
TM鈴木