前回は「練習しないことが本当の練習・・・」という内容でした。
試合・練習合わせての球数制限によりもたらされる(であろう)メリットについて、ケガの予防(発症・再発)、さらにはパフォーマンスアップという点から迫ってみました。
その中で特に「日本のアスリートがなぜそこまで量的練習に固執するのか?」を心理面から探ってみることは、意義のあることではないかと個人的には思っています。
そして今回は練習(量)を減らしながらパフォーマンスを高め、勝利に結びつける方法論について焦点を絞っています。
現在のスポーツ界に蔓延る量的練習習慣の変革は果して可能なのでしょうか?
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オーバートレーニングの実際
出典:https://goo.gl/oJRxUn
なぜこうした問題を取り上げたのか、最初はTM鈴木自身の学生時代の経験が大きかったのです。
高校は千葉にある強豪校で全国常連レベル、大学も関東一部で常に精鋭たちが凌ぎを削るクラブでしたからほとんど練習ばかりで他にはなにもできませんでした。
今の甲子園や全国大会に出場するレベルの高校生達も年間にしたら休みはほとんどないでしょう。
当時は練習すればしただけ上手くなるという「妙に信仰じみた幻想!?」がありましたが、そうした考えの根本は今も変わってないように感じます。
大学や社会人、そしてプロでさえもその本質は変わらないのではないでしょうか。
例えばプロ野球のキャンプ等は2月から始まりますが、自主トレと称する個人練習はそれこそ年明け早々には始まります。
さらに遡れば前年のシーズンが終了してほどなくすると秋季キャンプなる団体練習が約1ヶ月程続きます。
まあプロ野球も色々な事情があってそうなったのですし、外野がとやかくいうことではないのでしょうけど。
統計的なデータがないのでなんともいませんが、印象としては練習量の多い日本のほうが、練習量が少なくきっちりとした球数制限を設けているアメリカよりも肘を故障する数が少ないように感じます。
しかしそれは表に出るかでないかだけであって、潜在的な肘の故障を抱える選手は同程度かもしれません。
試合で発揮してこそのパフォーマンス
アスリートが自身の技術(パフォーマンす)を高める方法は試合しかありません。
練習でいくら頑張ってもそれは“練習”でしかないのです。
だからいくら練習しようとも勝負の結果は見えてきません。
なぜなら練習では(対戦)相手がいないですし、試合やレースを行う環境にはならないからです。
練習はあくまで練習!
どんなに良い結果がでようとも試合に直接繋がるものではない練習ですが、練習の意義は確かにあります。
フォームを固める(メカニクスの確認)、(筋・全身)持久力をつける、チームワークの構築、自己鍛錬の場等、練習はアスリートにとって意味のあるものです。
しかし“ある”一線を越えることは避けなければなりません。
どれだけ練習したらどんな効果がでて、逆にケガに繋がるのかを、現場は経験を通して知っています。
それでも間違うこともあり、それがケガやコンディショニングの失敗にまで繋がります。
そうしたあまりにも行き過ぎた過度の練習に固執することは賢明な策といえないことを、アスリートや指導者はしっかりと認識するべきでしょう。
不安や意欲は敢えて試合に持ち越す
練習では「もう少し○○したら(さらに)良くなるだろう!もうちょっと、もうあと少し・・・」とかいう不安(恐怖)や意欲もあり、量を適度にすることが難しい場合が往々にしてあります。
しかしそこは【敢えて試合に残しておく!】というのがTM鈴木の考えです。
その不安や恐怖、または意欲をどこで解消するかと言えばそれは試合です。
「○○が上手くできないからたくさん練習してその不安を解消するんだ!」という考え方ではさらなる境地へ踏み込めないことを理解してください。
「○○ができないから明日の試合は不安だ!でも試合でその(できない)恐怖に打ち勝ってこそみずからの技術やパフォーマンスが高まる!」と思えるような思考法に変えていくのです。
手段と本質を間違えることなかれ!
量的練習を回避するためにはどうしたら良いのでしょう?
例えばピッチャーであれば(球)数を減らすことでしょうか?
いえいえ、それはちょっと違います。
確かにピッチャーの球数を減らす(登板間隔を伸ばす)ことは肘や肩のケガ予防という点で非常に大切です。
プロゴルファーの練習打数やスイマーの泳ぐ距離のコントロールも同じように大切です。
しかしそれはあくまで方法論・手段であって、問題の核心ではありません。
投球数を制限しても肘の故障は増えているという報告が如実にその事実を物語っているといっても良いでしょう。
単純に練習量(球数制限)を減らしただけでは、投手の肘や肩の故障者数は減ることがないということです。
もちろん登板間隔(MLBは中4日)・マウンドの硬さ・ボールの違い等もあるでしょうが。
手段ではなく本質を理解する
ルールを定めてもそのルールに従わない人は必ずでてきます。
制度化してもその本質が理解できなければ状況は今と変わらないでしょう。
そこで大切なのが考え方なのです。
今までの考え方を変えるためには
『今までの投手達が行ってきた(練習)習慣とはまったく違った方法でやることの価値を見出したい!』
例えば・・・
『私がそれ(量的練習)を改善して200勝を達成した最初の投手になるんだ』
とかね。
そうした考え方にシフトしていく日常を含めた行動や行為が大切です。
考え方を変えるベースはどこから?
考え方のベースを変える唯一の方法は様々な経験をすることです。
色々な物事を見て聞いてみずから経験することが考え方を変えるきっかけにもなるし、新たなアイディアなる産物を生み出す導火線ともなり得ます。
様々な経験を積むことで“赤い花”が“黄色く”見えることもあるし、なぜそう見えるのかを自分で探し出す過程が競技での【視界】を大きく広げる要因となるのです。
ダルビッシュ投手(テキサスレンジャース)のように1年4ヶ月もの治療・リハビリ期間を思考を巡らし視界を広げるピリオドに当てられたことは、その後のキャリアに大きく生かせるのではないかとさえ思います。
量的練習からの脱却、その具体策
出典:https://goo.gl/G5tcA3
プロゴルファーの石川遼選手を早熟というイメージでとらえる人は多いのではないでしょうか。
若くして日本ツアーで大活躍し、次のステージ(アメリカツアー)挑戦を掲げ挑み続けていますが、未だ満足のいく結果(本人目線での)は得られていないようです。
最近でこそ徐々に復調の兆しが見え始めましたが、中々上位進出は望めないのが現状でしょう。
太く長くか細く短くか!?
日本でプレーする彼を観たとき、身体が小さいというハンディを克服するため、ドライバーで目一杯飛ばすことに執念を燃やしているように見えました。
加えて飛距離を出すための身体作りをしたものだから、確かに距離は伸びたけど代わりに身体には多くのストレスが加わることとなりました。
若いからケガには無縁かと言えばそうではなく、ドライバー・ウッド・アイアン等、多彩な打ち分けをするために日に何百回とスイングするものだから、身体が悲鳴を上げてしまうのは必然だったのです。
以降度重なる激しい腰痛に悩まされ、飛距離どころかスイングメカニクスを崩してしまい今に至っています。
こうした若き才能が伸び悩み人知れず消えていった例は枚挙にいとまがありません(石川選手はまだまだこれからと信じていますが!)。
身体や心が【健康】であってこその競技力向上です。
明日の結果をすぐに求めるのではなく、3年後・5年後・10年後の自分を思い描きながら【細く長く】生きる方が身体にも優しいことを石川プロには改めて知って欲しいですね。
彼の取り巻きにそのことを伝えられるスタッフがいればいいのですが。
周りに公表する
例えばプロのピッチャーであれば『量的な練習よりも質を求めている』、そして『球数を制限している』ということを周りに公表することです。
私はこういう考えをもつ選手だよ!ということを指導者も含めた周りに伝えていくのです。
その代わり、なぜそうすることが大事なのか、それをすることで得られる利点等も含めてしっかりと話をできることが必要です。
そのためには様々な角度から練習に関する学術的に視点をもって量的・質的練習のメリットやデメリットについて話せる知識と経験が必要でしょう。
日頃からしっかりその事柄について勉強しておかないと説得力もないし、なにより練習量を減らしてパフォーマンスを高めることに対する自信がつきません。
ジュニア期なら親や指導者の考え方が重要
ジュニアアスリートならそうした考えの元はお母さん・お父さん、そして指導者の考え方に依存するかもしれませんね。
親なら普段から我が子と練習量やその方法についても話し合っておくことが関心です。
お子さんの「もっと練習しないとうまくならない!」とか、「試合で失敗したらどうしよう!?」という不安、そして「もっとやりたい!」という過度の意欲を上手く分散させてあげる引出しをたくさんもっているといいですね。
指導者は医科学的な見聞も持っていることが練習プログラムを作る際に役立ちます。
例えばボールを投げる際の外反ストレスについてその瞬間画像を見ておくだけで肘にどれほどの負担がかかるかは明らかに理解できるでしょう。
メカニクスの重要性
現代スポーツの発展はスポーツ科学の進歩と切っても切り離せないものです。
例えば身体の動かし方ひとつで結果は大きく違ってきます。
その体の動かし方をよりスムースに力強くできることがパフォーマンスアップには欠かせない要素となっています。
投球・ゴルフスイング・走り方・泳ぎ方等、こうしたスポーツ時の動作フォームのことを最近ではより学術的にメカニクスと呼んでいます。
メカニクスはパフォーマンスを高めると同時にケガを生みにくい動きの獲得を目指すため、現代スポーツでは不可欠な要素となっています。
ケガをしにくいメカニクスを知ろう!
投球メカニクスでいえば加速期に如何に肘の外反ストレスを軽減して目標とするコースに投げられるかが大切です。
仮に全力で投げたとすれば外反ストレスはとても高いものとなり、それをプロの先発投手であれば中4日~6日で100球前後は投げ込むことになるのです。
肘にかかる負荷はどれ程のものか容易に想像できるでしょう。
「強く速い球を投げなければ打者は抑えられない」と考えるか、「打者を打ち取るコツは強さだけではなく、投球術だ」と考えるかでも練習の内容は全く変わったものになるはずです。
実際、球速は例えば140km/h台前半とそれ程でなくとも、相手の苦手なコースに投げ分け、さらにツーシームやカット系など、動くボールを駆使して抑えられることを証明している投手もいるのです。
こうした投手は球速を8割方に抑えた上でコースに投げ分けるコントロールを重視するため、加速時の外反ストレスが最大限に高まることがありません。
骨格筋の伸縮を最大限に発揮する
スポーツ時の動作において最大の貢献をしてくれるのが筋肉(骨格筋)です。
骨格筋がついているからこそ人は動けるといってもいいでしょう。
その骨格筋を運動時に最大に貢献させることが、パフォーマンスを高める上で最も重要な要素のひとつです。
骨格筋はその中央部を筋腹(きんぷく)と呼び、両端はそのほとんどが骨に付着しています。
筋腹は最大限に伸縮する要素を兼ね備えていますが、両端にいけばいく程細くそして硬く(伸縮性がなく)なり最終的には腱(けん)に移行し骨に付いています。
この筋腹から腱に移行する部分を筋腱移行部(ユニット)といい、ある程度伸び縮みしてくれる部分です。
実は筋腱移行部は圧に対し反応し、適度に刺激することで筋肉の伸縮性能が高まるとの報告があります。
体幹部の動きの性能を高める
特に体幹部と腕・脚の付け根等の動きを良くすることで、パフォーマンスが格段に高まることが知られています。
投手であれば肘や肩といった消耗する部分を如何に上手く保護(量的な球数コントロール)しながら、体幹部と腕や脚に繋がるジョイント部の動きを活性化できるかが重要です。
体幹は多くの筋肉が存在する部位でもあり、骨格筋と筋腱移行部をしっかりと動かせるようになれば、無駄に余分な力を発揮することなく、キレのあるバッターが嫌がるようなボールが投げられるのです。
肘の原因のひとつとされる外反ストレスも体幹の動き(しなり)があることで、相応に軽減するため、体幹のしなりを伴った動作の獲得を質的な練習として取り入れるべきでしょう。
どういったトレーニング法があるか、そして実際にどうやって体幹部を動かせるようにするか、ご興味ある方はこちらにてお問合せください。
まとめ:
量的練習を回避しケガの予防やパフォーマンスアップに貢献する具体的思考法についてまとめました。
多くの人と同じような考え方ではなく、あなた自身のオリジナルな考え方に基づいた行動をとることが、量的な練習に依存しない行動に結びつきます。
量的・質的練習のメリット・デメリットを把握し、自分がどちらに傾倒しているのかを口に出して周りの人達に伝えるようにしましょう。
該当するスポーツの動作メカニクス(フォーム)を分析し負担の掛からない動作を心がけましょう。
精神的(考え方)・肉体的な余裕が質の高い良い練習を育み、試合に生かされるという好循環が生まれることが最大限のパフォーマンスを発揮できる要因となります。
是非、熟考してみてはいかがでしょう!
TM鈴木