大腿四頭筋は走るときブレーキになる!?の理由(わけ)に迫る~重くなればなる程走りにくくなるのか?その真意を探る~

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ITや科学技術と同様、トレーニングやエクササイズの世界も日進月歩です。

つい最近まで健康・フィットネスの【常識】だった考え方が新たな研究により、それまで【非常識】だった考え方にとって代わるというのはよくある話です。

大腿四頭筋についてもそのことが言えます。

『大腿四頭筋絶対必要論』とでもいうのか、中高年の健康増進でも、アスリートのパフォーマンスアップでもこの筋肉の必要性が説かれる場面を幾度となくみかけます。

ところが最近の検証によれば、その大腿四頭筋は走るとき・動くときに邪魔になるかもというのですが、これはいったいどういうことでしょうか?

本稿では大腿四頭筋の性質や、その真の役割について独自の視点も交え検証してみます。

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大腿四頭筋、その役割とは?

大腿四頭筋で競い合い

大腿四頭筋の位置と機能

大腿四頭筋(Quadriceps)は太腿(ふともも)の前側に位置する筋肉で、脚を挙げる股関節の屈曲(くっきょく)や、膝を伸ばす伸展(しんてん)動作に関わる筋肉です。

筋肉(学術名称:骨格筋)はその両端が骨に付着し、大腿四頭筋も胴体に近い方(起始:きし)はひとつが骨盤に、他の3つが大腿骨の根本に付着しています。

胴体から遠い方(遠位・または停止:ていし)は4つの筋肉とも膝蓋骨(お皿の骨)を介して脛骨の粗面(そめん)という膝下に付着します。

大腿四頭筋が一方の筋端のうちひとつだけが骨盤に付き、残り3つは大腿骨についていることから、股関節を曲げる時に使われる筋肉は骨盤に付着する大腿直筋だけなのです。

筋肉の起始・停止がわかれば四頭筋がどういう動きをするかがおおよそわかります。

昔短距離選手がよくやっていた腿上げ、そして上げてから膝を伸ばす動作、そうした一連の動作がちょうど大体四頭筋の役割、つまり股関節を曲げて膝関節を伸ばすという役割です。

忘れがちなもうひとつの役割

ところが大腿四頭筋にはもう一つ役割があり、それが現在おおきな注目を浴びています。

歩くときや走るとき大腿四頭筋(膝関節を中心の膝関節伸展機構)は身体を支える役割があります。

歩く時は体重の約3倍、走るときは実に体重の約7倍以上*1)の負荷を大腿四頭筋を中心とする膝関節伸展機構が支持する【支える】わけです。

*1)歩行・走行時とも片足立脚期(片脚だけが地面に着き、もう一方は地面から離れている)

様々な役割が期待される四頭筋ですが、実は股関節屈曲や膝伸展の役割と同じように大切なのが「人が移動する時の片足立脚期で身体を支える」とういう仕事なのです。

四頭筋絶対必要論のワナ

役割がたくさんある四頭筋ですが、トレーニング&エクササイズも片脚で体を【支える】種目があってしかるべきですが、なぜかスクワットやエクステンションといった太腿を太く強くする方法が重宝されています。

強く太くすることを批判するわけではありませんが、そこにばかり目が行くということが問題なわけです。

歳をとると脚が弱るから筋力が衰えないよう太腿の筋肉を鍛える!という考え方ばかりが奨励される現実には少々疑問が残るのです。

アスリートが自分の体重の1.5~2倍程の重りを背負いスクワットをする!よく見かける光景でもありますが、そうしたトレーニングを何の疑問を持たずに行う状況は果して良いのでしょうか?

推力にブレーキをかけてしまう!?

大腿四頭筋ブレーキ論

太腿の筋肉を鍛える代表的はトレーニングはスクワットです。

人によっては100kg、130kg等と実に体重の1.5倍から時には2倍以上にも及ぶウェイトを歯を食いしばりながら挙げている光景をよく見かけます。

ウェイトトレーニング界にはビック3と呼ばれるトレーニング法があり、それがベンチプレス・デッドリフト・スクワットです。

ウェイトトレーニングをするならスクワットをしなきゃいけない!かのごとく、ビック3はほぼ『三種の神器』としてあたかも奉られてる!?いわば重要な種目になっています。

そのスクワットが実はアスリートなら太腿の筋肉を鍛えるため、中高年でいえば太腿の筋肉を維持するために使われている現実が今でもあるわけです。

走る時のブレーキになる!?

今迄は太腿の筋肉を鍛えることがほぼ全ての運動能力を高めると考えられてきました。

だから大きくてゴツくて太い太腿は運動能力の高さを証明する目安にもなっていたのです。

しかし現在ではこの大きな太腿がパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性がある!それが走る時にブレーキをかけてしまうと言われる大腿四頭筋のマイナス要因です。

走るときは腿を挙げてその脚を前方に勢いよく振り下ろします。その時に強力すぎる大腿四頭筋であれば身体を【支える】という仕事だけでは物足りず、前進するための推力にさらに強力な《ブレーキ》をかけてしまう可能性があるのです。

世界的なスプリンターなら100mを約45歩程度で走ります。ブレーキがかかってしまうその一瞬は時間にしてわずか0.0○秒なのですが、それが45~46回続いてしまえばかなりの大きな差になってしまうものです。

黒人選アスリートは裏側を使う

黒人アスリート大腰筋

太腿が太い人は推進力を減らしていることになり、大きな損をしているかもしれません。

しかし太腿がある程度太いにも関わらずブレーキのロスがそれほどない人達もいるわけです。正確には人種というべきかな。黒人スプリンター達です。

最近の選手でいえばジャスティンガトリン選手、身体もゴッツイですがその太腿は非常にデカくて力強さがありますね。

しかしガトリン選手を含む他の黒人選手は、そのほとんどが太腿を使うより先に大腰筋という筋肉を使用して絶対速度を高めています。

身体の中心から動ける能力

大腰筋は腰の骨:腰椎から骨盤を介して股関節内側に付き、“身体の柱”として全身をぐらつかないように安定させる働きがあります。

“抗重力筋”として身体を荷重(重力)下で支える大腰筋は、他の骨格筋とはちょっとその特性が違い、筋を縮めて働くより伸ばされた状態でジーッと耐える、つまり張力を発揮するという特性をもっています。

この”伸びながら働く(活躍する)”作用が【支える】という面で重要となるのです。立っている時でいえば大腰筋がしっかりと伸びている状態になって初めてその機能が生かされます。

大腰筋の特性を最も端的に現しているのは「踏ん張る力」です。上半身と下半身を唯一繋いでいる筋肉で、体がぐらつかないように床をしっかりと踏みしめることで安定させています。

太腿が優位に使われやすい日本人は大腿四頭筋をさらに鍛えることで大腰筋の機能を阻害しているといってもいいでしょう。

例えばサッカー等、運動時における相手とのコンタクトやバランスを崩した際の踏ん張りを大腿四頭筋を働かせることで防止するため、身体を支える大腰筋の優位性を見事に阻害してしまうのです。

サッカー界でその名を轟かせるリオネル・メッシ選手は他の選手と比較して体格的に恵まれているわけでもなければ、筋骨隆々で鍛えら抜かれた身体というわけでもありません。

しかしその動きはマークしてくる何人ものディフェンスを翻弄し、相手がまったく太刀打ちできないような体の操作性を有しています。

メッシ選手に代表されるこうしたしなやかでどちらかといえば“柳に風”のような動き、からだの中心部の大腰筋を含めた深層筋群の上手な使い方をマスターしていなければ達成できるものではありません。

知ってか知らずか、メッシ選手はこの大腰筋をしっかりと働かせることができる数少ないアスリートのひとりなのです。

爆発的パワーの源

大腰筋(だいようきん)は第12番目の胸椎と1~5番目の腰椎に付着し(起始)、骨盤で腸骨筋と合流し大腿骨近位端内側にくっついています。

大腰筋は股関節を曲げる筋肉ですが、さらに言えばしっかり伸びている状態から力を発揮するのが得意な筋肉なのです。

「しっかり伸びて・・・」つまりそのしっかり伸ばせる状態を作るためには、骨盤の前傾(ぜんけい)という骨盤傾斜角度が必要なのです。

黒人は他のコーカサス系、アジア系人種に比べ元々この骨盤傾斜角が大きく、その差は15度以上あると言われています。

またある研究によれば黒人選手と日本人選手の大腰筋断面積の差は実に3倍以上という報告もあります。

大腰筋の筋断面積の違い、質の違いは走力に大きく影響します。

逆に言えば大腰筋を上手に使えない場合、大腿四頭筋で“代用”せざるを得ないため太腿がやたらと太くなってしまう。それが日本人スプリンターの現状といえるでしょう。

動作の質がまったく異なる2つの筋肉

股関節屈曲に作用する大腰筋は背骨から骨盤を通って股下についています。同じ屈曲動作を主とする大腿直筋は骨盤下からお皿の下にかけて通っている筋肉です。

腿を挙げる動作を考えてみると大腰筋と大腿四頭筋では股関節を曲げるという役割は同じでも、その動作の質は全く違います。

大腰筋は腿の挙げ初めから徐々に活動し主として45~60度の間で最も働く筋肉ですが、大腿直筋は大腰筋の活動限界域辺りからやっと腿挙げに参加し動作の最終域である120度辺りまでその機能を維持します。

つまり背骨から骨盤を介し股関節の際(きわ)につく大腰筋で腿を挙げて始め、途中からは股関節付近の骨盤側から脛の際(きわ)につく大腿直筋がその(挙げる)という“任務”を引き継いでいるのです。

日本人は腿上げを太腿の筋肉である大腿直筋で腿をあげていますが、黒人スプリンターは大腰筋を主として使います。

大腰筋を使った腿上げは最初だけは勢いよく爆発的な速度で挙がりますが、その後は惰性である程度まで上がるにすぎません。

太腿を使ってしまう腿上げは挙がりはじめは大腰筋主導の腿上げに比べてその勢い高まりませんが、可動限界域まで腿上げが継続します。

実は腿上げの中間から後半にかけては、前に進む力(推進力)にほとんど関係がないので、太腿の筋肉を使いやすい日本人スプリンターはまったくもって非効率で無駄な動きをしていることになります。

黒人スプリンターは持って生まれた才能もありますが、この【大腰筋の使い方】がとても上手でそれが記録や成績に如実に現れているのです。

太くなった太腿と選手の行く末

太腿が太くなりすぎると“ある弊害”がでてきます。

筋肉が大きくなることはそれだけ力・パワーを発揮しやすくなることを意味しています。バイオメカニクスの基本的な考え方です。

しかし筋肉を大きくするということはその筋肉を動かすためにさらに身体を大きくしなければなりません。

大腿四頭筋が肥大すればそれを動かすためにさらに身体に筋肉をつけねばならないという悪循環に陥るわけです。

これではどこまでいってもキリがありません。筋肉を太く大きくすればするほどそれを動かす動力源(エンジン)をさらに大きくしなければならないということです。

とても非効率極まりない考え方だと思いませんか?

太腿の筋肉はしっかり使えるに越したことはありませんが、過度に肥大した太腿や度を超した筋力は正直必要はないのです。

太腿を使える状態より身体の中心にある大腰筋をうまく使えるほうが運動能力は高まるのです。

裏側に視点を向けるスクワット

視点を変える

大腿四頭筋を鍛えるスクワットはスポーツにおいてそれほど必要ではありません。しかし視点を変えてハムストリング・臀筋群・下背部等を鍛えるためであればスクワットは非常に有効なトレーニング法のひとつです。

ポイントは“しっかり”骨盤を立てて行うことです。目安としてはいつもより腰が伸びている状態を維持しながらおこなうのがよいでしょう。

『えっ、こんなに伸ばすの?』というくらいの感じなので、身体への刺激としてはかなり強いことを考え初めは通常の2/3以下の重量で行うことをお薦めします。

まとめ

まとめ

太腿の筋肉は日常生活やスポーツ動作にとって確かに重要ですが、その特徴をしっかり把握した上でトレーニングすることが身体を作っていく基本です。

知ってから知らずかは別として、黒人アスリートであれメッシ選手であれ大腰筋を含む深層筋群の上手な使い方をしっかりと身に付けていることがパフォーマンス向上につながっていると考えれます。

そういう意味で日本人選手も従来からある考え方に固執せず、貪欲に新たなアイディアを学び実践してほしいものです。

TM鈴木

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