野球肘、肘の怪我はMLB選手から少年までどのレベルでも起こりうる問題です。
肘の故障には球数制限や投球間隔(中4日~6日等)、そして硬いマウンドや滑るボール等(MLBを基準としたもの)だけでなく、体を如何に健康に保つかというコンディショニングの問題も非常に大切な要素です。
ケガの予防や疲労回復には肘まわりや前腕部のストレッチも大切ですが、体の仕組みを知るとさらに有効な手段となり得る方法もあることがわかっています。
そこで肘の筋腱移行部に注目し【圧】刺激を加えることでストレッチ効果を倍増させる方法に迫ってみましょう。
しっかりと定期的に行うことで肘のケガを予防するだけでなく、ムチのような腕の【しなり】を生み出す効果も高まり球速アップにも繋がります。
Contents
肘のケガの正体
同じ肘のケガであっても成長期の子供と成人の場合ではその特徴が大きく異なります。
子供の肘の場合
出典:https://goo.gl/je5kxS *左投手、左肘を後方から観察
成長期の場合、骨の成長過程にありいわゆるリトルリーグエルボーと呼ばれる野球肘が大きな原因となります。
骨の成長に欠かせない骨端部の骨端線が離開(軟骨部分からはがれるようにはなれてしまう)したり、筋肉に引っ張られて剥離(骨の一部がはがれる)したり、大きくは骨端部への炎症(腫れ・痛み・熱・機能障害)を含む骨端症が起こります。
骨端部の炎症・剥離・離開といった症状であれば、程度にもよりますが一定期間の休息および適切なリハビリによって、その多くが保存療法で回復が望めます(離断性骨軟骨炎:OCDの場合は手術適応が妥当)。
大人の肘の場合
出典:https://goo.gl/iXv8xJ
しかし成人、特に野球でいえばピッチャーは肘関節を構成する内側側副靭帯の損傷(部分または完全断裂)によるものが多く、多くの場合トミージョン手術(内側側副靭帯再建術)を施すケースが多く見受けられます。
特に近年はこの手術の信頼性が高まり、平均して1年6ヶ月程のリハビリ期間を要するものの、復帰2年目には球速が平均数km/h程高まるという報告もあります(実際の調査によれば1.2~1.4km/h程下がるとも言われている)。
肘のケガ自体は「痛み・腫れ・熱・動かない」といった症状は似ているものの、成人と成長期ではその中身(特性)がまったく違うので、対処法も当然ながら変わってきます。
痛みのメカニズム
Chrt1:肘を中心として外側に反るようなストレス(外反)がかかる投球動作
肘が痛む原因は投球時の加速期における肘の外反ストレス(肘の内側にある関節が外側に引っ張られる牽引力)が働き、手首を曲げる屈筋群・回内筋の付着部である上腕骨内側上果(じょうわんこつないそくじょうか)に過大なストレスが生じます。
この上腕骨内側上果への一極集中ストレスが、骨端(線)が成長途中にある成長期の子供の場合には付着部ごと離れる剥離(はくり)骨折や、骨端部の離開(骨端が引っ張られて開いてしまう)に繋がります。
成人、つまりプロのピッチャーともなればその影響は骨と骨を繋いで正常な関節運動を維持する関節包や靭帯に及びます。
セルフ・コンディショニング
出典:https://goo.gl/28itTh
スポーツでのこうしたケガは野球に限らず必ずといっていい程起こりうるものです。
起こってしまった場合、その状態を最小限に食い止め改善することが大切であり、またその前段階の予防で発症を防ぐことができるのならプレーに支障をきたすこともないでしょう。
体の“内なる声”に耳を傾ける
ケガを予防する一番のポイントは身体の反応に敏感になること、逆に言えば身体のちょっとした変化にすぐ気づく体を作ることです。
特に突発的な外傷を除く繰り返す動作による障害は疲労的な要因が大きく、筋肉の疲れ・凝り・張り・集中力の欠如・力の入れ具合等といった状態を的確に判断できれば、大事に至る前に防ぐことが十分可能です。
調子の変化に敏感になるには以下のことに注意するといいでしょう。
①体/動きの仕組みを十分理解する
②体の声に耳を傾ける(痛み・違和感・伸び・縮み・重だるさ・疲れ等を感知する能力)
③同じようなトレーニング(動き)ルーティンを定期的に繰り返す
肘の問題であれば①肘の構造や動きを理解し、②マッサージやリハビリ、そしてコンディショニング等の動きで肘の曲げ伸ばしや動きやすさ、コリ・張り・硬さ等を体感し、③投球動作や筋力トレーニング等で肘の負担や動きの確認をすることで、肘の調子に対する感度が大きく高まるはずです。
筋肉を伸ばすということの意義
こうした対処法にはもちろんストレッチング等も含まれていますが、例え筋肉を伸ばしたとしてもそれでは不十分という場合が往々にしてあります。
なぜなら人の体は筋肉だけでできているのではありません。
ターゲット:筋肉<筋腱移行部
出典:https://goo.gl/Yx1spU
骨・靭帯・腱・膜・脂肪/コラーゲン組織等々、様々な構成要素があり、そのどれもが日常生活やスポーツ活動にとって大切なものだからです。
筋肉を【伸ばす】ことだけでは他の組織を【緩める】ことはできず、筋肉の最大伸展能力を高めることができません。
伸ばす・緩めるによって筋肉はしっかりと【解れる】状態になるので、肘全体の動きに制限がかからずスムースでダイナミックな動きが可能になるのです。
前腕部や三頭筋のストレッチングはそれだけでもとても有効な肘のコンディショニングとなりますが、そこにもうひと工夫を加えてみましょう。
肘の内側にある骨の出っ張り(凸:上腕骨内側上果)の少し前腕部よりが今回のポイントです。
手首を曲げる屈筋腱の付着部となっていて、その1cm手首寄りがいわゆる筋腱移行部(ユニット)と呼ばれる箇所です。
筋腱移行部はその名の通り筋肉(骨格筋)から腱に移行する場所であり、それが直接肘の骨(内側上果)にくっついているのです。
セルフ・コンディショニング
腱は筋肉のように伸びませんが【圧】刺激を加えると緊張が緩むという特性があります。
そこで動画にてセルフ・ボディメンテナンス・ピラー【ツブツブ】を使った肘内側部のコンディショニングをご紹介しています。
腱(筋腱移行部)が緩めば前腕の筋肉(筋腹:筋肉の最も太い部分で伸び縮みの中心部)もストレッチのみの場合と比べてさらに緩んでくれます。
肘周囲の筋組織すべてが解れてくれるので投球動作へ移行しやすく、外反ストレスに伴う肘の負担も軽減されるのです。
ウォームアップだけでなく、クールダウンやちょっとした空き時間にもこの筋腱移行部への【圧】刺激を加えることで、コリ・張りを含む慢性的な疲労状態を改善することが可能です。
以下にやり方を示します。
①【ツブツブ】をテーブルまたは適当な台の上に置く
②投球腕の肘内側、骨の出っ張りより手首側の比較的柔らかい部分を【ツブツブ】にのせる
③ ②のポイントに圧を加えるため、体重を徐々にのせていく
④痛み(いた気持ち良さ)を感じたら前後、左右ににゆっくりと1~3分程動かす
目的は肘関節を含む周囲の筋・腱組織をストレスを受けても常に良い状態に保っておくことです。
前腕・上腕部のストレッチ、アイシングと組み合わせることで常にコンディションを保つことが可能でしょう。
さらに体幹部のスタビリティ(安定性)とモビリティ(機動性)の強化をお忘れなく!
肘のケガをリスクフリーに保つには全身を使った投球法の確立が重要です。
成長期は身体の各部分、特に深層部にある筋肉や組織をしっかり使えるような運動法を学ぶべきでしょう。
体全体を使えるようにすることはパフォーマンスアップに直接繋がるだけでなく、ケガのリスクを可能な限り低下させる大きな要因なのですから!
まとめ:
投手の肘のケガは幼少期からプロレベルまですべての年代において起こりうる問題です。
成長期では主に骨端線や骨端部の変形・離開等が中心で、プロレベルになると関節靭帯に関わる症状が起こります。
肘のケガは投球動作での加速期において肘関節内側部の牽引力の高まり(=外反ストレス)によって発症します。
こうした肘のストレスを解消するため、筋肉を伸ばすでなく、セルフ・ボディコンディショニング・ピラー【ツブツブ】を使用した筋腱移行部への【圧】刺激を加える方法を紹介します。
筋肉の伸びる仕組みを把握し特性を理解した上で試す【圧】刺激は、肘の怪我予防やパフォーマンスを伸ばすための必須条件となるため、是非毎日のルーティンワークアウトとして取り入れてみましょう。
TM鈴木