今や全日本男子バレーになくてはならない存在の石川祐希選手、エースとして、世代最高の逸材としてチームを牽引しています。
今年はグラチャン(正式名称:「FIVB World Grand Champions Cup」)が行われ世界の猛者達との戦いがもうすぐ始まります。
代表チームの中核である石川選手の活躍なしには日本の躍進はあり得ません。
そこで石川選手の今大会の活躍度をアスレチックトレーナーの視点から探ってみました。
石川選手の動きの魅力に迫り、彼のどこが他の選手と比べて優れているのかを検証してみましょう。
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体格は平凡だが・・・
バレー選手としてはどうしても見劣りしてしまう体格、というのも彼の身長は192cm、84kgです。
身長は1~2cm程“サバ読み”は当たり前のバレー界にあって本当に192cmあるかどうかも「???」という感じですが・・・。
日本人の体格特性
バレー界では長身の日本人選手といえばどうしても「ほっそくてヒョロヒョロ」というイメージが強く、屈強な男とはかけ離れている印象がありました。
石川選手もご多分に漏れずこの傾向は強かったようです。
身長192cmで84kgの体重ですから現代のアスリートであれば、80kg台後半か90kg台あっても不思議ではありません。
だいたい「そんなにマッチョではジャンプできないだろ!?」
とお叱りを受けそうですが、実は現代科学で観ればそうではないのです。
今の代表選手をみても細いなぁと思える選手がほとんどであり、絶対的な筋力(というより筋出力)不足の選手が多いように感じます。
「バレー選手ってそんなにマッチョでもいいの?」
→『はい!いいのです!』
ノン・コンタクトスポーツであるバレーボールですが、世界は如何にに空中で操作できる身体能力&パワーをつけるかが課題となっています。
厚みのない日本人選手達
石川選手は2年連続3冠を達成した高校の時から比べると体重も増量し体格も大きくなってきました。
しかし世界と戦うにはまだあまりにも貧弱すぎると言えるでしょう。
同様に現代表選手のほとんどは自身の筋肉を誇示できる程の体格を有しているかと言えば決してそうではありません。
別にマッチョな自分を魅せる必要はまったくありませんが、それ程自慢できる筋肉なのかと言えばそうではない!という程度の意味です。
特に重要なのは背中を中心とする裏側の筋肉です。
『メリハリ』、彼らにはこのポイントが絶対的に不足しているのです!
どの選手もノッペリしていてデコボコ感がまったくありません。
特に上背部や臀部、そしてハムストリングの筋肉はその高い運動能力を示す指標ですが、そこがしっかり働いているように見える代表選手は皆無です。
日本人であれば高身長でブロックの中心となるべきミドルポジションの選手達にもいえることです。
代表チームでもトレーニングはおそらく継続しているでしょうから、その体作り・動きづくりの練習に問題があるのかもしれません。
体格的な課題とは?
TVやネットからの情報で、あくまで予測になってしまうのですが・・・、全日本男子チームは最大挙上重量にはチャレンジしていないようです。
もしくはその回数が適正ではないのかもしれません。
空中に跳び上がるからといって最大(最大に近い)ウエイトを扱わず、その60%程度だとしたらそれは大きな誤りです。
筋肉はその収縮能力を普段から最大(MAX)近くにした状態を維持することでしか最大発揮能力は高まりません。
少なくともビックスリーと言われるベンチプレス・スクワット・デッドリフト、そしてクリーンでは最大重量を定期的に体や脳に意識させることが必要なのです。
空中で様々な身体操作性を高めなくてならないバレーボールでは、不安定な状況で筋の発揮能力を最大にしなければ相手には通用しないのです。
最大挙上重量の6割程度、つまりミドルパワーでは空中での筋力発揮は確実にそれ以下に落ち込むはずです。
だからこそMaxの筋出力発揮には拘りを持つべきだとTM鈴木は考えます。
非コンタクトで飛び跳ねるスポーツであっても重量には細心の注意を向けるべきでしょう。
チーム状況から任されるダブルワーク
攻撃力に関しては非常に優れた才能を有しています。
技術的な観点でも身体能力的ポイントでも石川選手のオフェンス能力は日本ではトップと言えるでしょう。
それ程高い打点ではないが・・・
スパイクでいえば正直それ程高い打点ではありません。
グラチャンの独占放送権を持つ日テレでは盛んにバスの高さより高い等と嘯いていますが、世界的にみれば345~350cm程度の高さの選手は世界にはゴロゴロいます。
現代バレーではウイングスパイカーは高さを生かすのではなく、セッターとのコンビネーションで速さを生かす方向にシフトしています。
レセプションアタック時のレフトサイドからの攻撃、後衛中央からの速いパイプ攻撃ビック(BICK)等が石川選手が担うべき攻撃のオプションとなります。
従って高くフワりとあがってきたトスをブロックが2~3枚ついて打ち抜くというような攻撃パターンは滅多にみられません。
石川選手はセッターと息の合った速い攻撃でブロックが1枚ないし1.5枚になった場合に備えて如何に決定力を持つかにイメージを絞っているといっていいでしょう。
日本には真のオポジットが存在しない!?
ところが、今の代表チームには本格的なオポジットがいないという弱点があります。
ある意味これが最大のネックであり、東京オリンピックでメダルを獲ると豪語する中垣内監督が最も頭を痛めるところなのです。
オポジットとはセッター対角に入るオフェンス専門の選手のことで、現代バレーでは攻撃の最後のオプション(切り札)であり、レセプションが乱れた場合にセッターが頼ることのできる絶対的なエースです。
日本にはこの選手が圧倒的に不足しているのです。
今は大竹(壱青)選手と出来田(敬)選手を併用していますが、結局のところどちらも一長一短があって首脳陣の悩みは中々解消されません。
国内のVプレミアリーグではこのポジションに外国人選手が入ることが多く、選手が育っていないのが現状なのです。
チーム状況が石川選手の負担を高める!?
まともなオポジットがいない場合、攻撃オプションの要になるのは誰か・・・。
チームを引っ張るエース石川選手がその役割を担ってしまうのです。
しかし彼はウイングスパイカーで本来はレセプションの一角を担わなくてはなりません。
レセプションに注意を向けつつ《フィニッシュブロー》を決める際の要にもなる!?
現代バレーにおいては役割が多すぎて複雑化してしまい、これでは石川選手が得意とする速い攻撃力を存分に生かすことができません。
真面目な石川選手なので上がってくるボールに対しては絶対的な責任を持つことでしょう。
しかしその性格が仇となり本来担うべきディフェンスが崩れたり、最悪は得意の速い攻撃にも影響してしまう、今まではそんな状況も多々見られました。
チーム浮沈のカギを握る石川選手のオフェンス能力を最大限に生かすためにも、一刻も速いオポジットの育成が今の全日本男子バレーには急務なのです。
石川選手はどう戦うべきか!
石川選手の活躍がチーム上昇のカギを握る、今の全日本男子バレーはまさに彼を中心にチーム作りをしているといっても過言ではないでしょう。
石川選手を中心とした全日本は世界の猛者達とどう戦えば良いのでしょうか?
参加国は世界ランク上位
グラチャンの参加チームは以下の通りです。
日本(開催国枠)(12)
アジア王者:イラン(8)
ヨーロッパ王者:フランス(9)
北中米カリブ王者:アメリカ(2)
南米王者:ブラジル(1)
FIVB推薦国:イタリア(4)
グラチャンは少数精鋭の参加国であり各大陸のチャンピオンやワイルドカードでもランク上位国しかいません。
いずれも日本より世界ランクは上位で特にブラジル、アメリカ、イタリアのトップ3は戦術的にも個々のレベルも日本との差は歴然です。
フランスは今年のワールドリーグチャンピオンでウイングスパイカーのヌガペト選手は決定率もさることながら抜群の運動能力を発揮しチームを牽引しました。
イランもヨーロッパスタイルの洗練されたバレーをしてくる強豪で確実に勝利するには難的と言えるでしょう。
グラチャンはオリンピックの翌年開催であり各国代表はチームの変革期にあります。
その中でも結果を出しているチームには安定感があり、常勝軍団として負けられないプライドもあるはずです。
個人の才を見せつけるべき!
世界の強豪が集結するグラチャン、常識的な考えなら全日本は確実な勝利をものにすべくチームとしての戦術を組むはずです。
ただ組織的なプレーはもちろん大切ですが、今はそれより重要なこと、つまり各々のプレー能力を高めることに心血を注ぐべきでしょう。
勝ちにこだわるのは確かに必要ですが、グラチャンで優勝したからといって世界選手権やワールドカップのようにオリンピックの出場権が確約されるわけではありません。
というか日本は既に開催国枠を持っているのですから出場権は必要ないのです。
石川選手を始め他の選手も自分の能力を存分に試す良い機会だと思います。
サーブやスパイクでのオフェンス等様々なオプションにチャレンジしたり、新たな技を試すことが来シーズン以降の飛躍に繋がるはずです。
相手の戦術的なブロックやレシーブ包囲網をどうやって破り得点に繋げるのか、どんな技術が通用してどんなプレーなら相手に畳み掛けられてしまうのか等を検証しておく必要があります。
チャレンジでしか磨かれない感性
石川選手は攻撃的な選手です。
守備はどんなに練習しても“それなり”でしょう。
もっと言えばオフェンスでも世界からみれば“並み”を超える程度の能力でしかありません。
一流になる要素はプレー以外にある!?
彼がこれから“世界の一流どころ”に肉薄するにはプレー技術もさることながら、『チャレンジするための感性』を磨くくとが重要だと考えます。
例えば能力の6割しか出せないようなウェイト(重量)ならば、空中でボールに力を加える際の絶対的な筋出力は生み出せないでしょう。
定期的に自分の限界にチャレンジするくらいの物理的な重り、つまり自分へのチャレンジでしか力の発揮能力は高まりません!
限界(に近い)域での高負荷・高強度トレーニングに対する感性が高まることで、それが実際のプレーにも生かされるのです。
石川選手には大学1年からオフシーズンにはイタリア・セリエAに挑戦したチャレンジング・スピリットがあります。
こうした感性が鋭く、強いからこそプレーや関連するワークアウトでもその思考を多いに発揮して新たなアイディアをどんどん出していって欲しいとTM鈴木は切に要望します。
それが石川選手が身に着けるべき最大にして最高の“武器”なのですから!
まとめ:
全日本男子バレーのキープレーヤー:石川選手のグラチャンでの活躍度をアスレチックトレーナーの視点から探ってみました。
今は並みの体格やプレー技術(もちろん攻撃力は日本を代表するレベルですが・・・)ですが、技術以外の要素に目を向けることで石川選手の特性が生かされる可能性があります。
チーム事情でフィニッシュを任せられる存在にならざるを得ない状況ですが、本来の役割を全うできるよう、はやくチームが今そこにある課題を解消するべきでしょう。
石川選手の本来の特性とは、プレー技術もさることながら困難な状況を豊富なチャレンジングスピリットで解決していくその敏感な感性です。
本能ともいえるその感性を今大会でも発揮し、来シーズンに繋がる活躍ができることを期待しています。
TM鈴木