陸上男子100mでサニブラウン・アブデル・ハキーム選手が叩き出した日本歴代2位の9秒99が何を示すのか?
今回はサニブラウン選手の9秒99からみた今後の可能性を【骨盤前傾マニア】の視点から紹介、そして彼が身を置くアメリカの指導環境の一端をのぞいてみましょう。
前回のサニブラウン特集と比較してみると、さらに進化の事情が伺えます。
Contents
実力が追いついてきた!

ここから後半が落ちない!
現在フロリダ(大学)を拠点として日々トレーニングに励むサニブラウン選手、叩き出した9秒99は彼にとってはまだまだほんの序章に過ぎません。
彼の走りの変化は骨盤前傾トレーニング『かるのび~kaRuNobi~』の視点からも非常に興味があります!
特長的な走りは健在
彼を特集した前回、腕振りの特長について述べましたが、前に振るやり方は世界でも多くの選手がとり入れていて、それが欠点だとは思えません。
むしろ見た目にもわかるのは腕のスイングで脇が空く(腕と体の間が空く)ところです。
同じハイブリット系でもケンブリッジ飛鳥選手は脇を締めるようにして走っているし、他の選手もサニブラウン選手程脇が空いてはいません。
肩幅が広いわけではありませんが、広背筋がぶ厚く広いので脇を締める作業は彼にとって“骨が折れる”、つまり機能上は難しいのだと思います。
願わくばボルト選手のように後方に大きく振って、前振りで腕をコンパクトにたためるようになると、エネルギーを腕の振りでしっかり放出することができるでしょう。
天性が関与?骨格は骨盤前傾?
過去に一部のメディア等ではサニブラウン選手のトレーナーの言葉を紹介しています。
「骨盤が前傾しているんです」。それにより関節周辺の前側にある腸腰筋が発達しやすく、足のパワーを前方に伝えやすい。「臀部(でんぶ)周り、ハムストリングの発達の仕方もすごい。天性の骨格と理想的な筋肉が融合し、爆発力の源になっている。
ハイブリッドであるサニブラウン選手も、日本人に比べれば前傾している可能性が高いです。
コメントしたトレーナーも一応の目安で測っているのかもしれませんが、骨盤前傾に加えて必要な筋肉が適切に働く(伸縮する)ので速いのだと考えられます。
しかしトレーニング内容によってはさらなる前傾維持に磨きをかけ、特にハムストリングをもっと効かせることも可能でしょう。
まだヘソから下が脚!という感覚でスイング前に同側の腸骨(骨盤)をグイッと始動させる『かるのび~kaRuNobi~』ランの特性には気付いていません。
因みに便宜上使うには全くかまいませんが、腸腰筋を機能上としての表現で使うのは大きな間違いなので避けなければなりません。
腸腰筋とは腸骨筋と大腰筋のことで、前者は直接骨盤前傾に関わる筋肉、後者は腰椎を適度な前弯にして股関節を動かす時背骨・骨盤を安定させる筋肉なので、そもそも本質的な機能が違います。
前傾だけではダメ
骨盤は前傾しているだけでは正直速く走れません!
骨格的に前傾することで大腰筋・ハムストリングが適切に伸びている状態からしっかり収縮できるかが重要ですし、他にも脊柱のしなり・腹空圧コントロール・胸郭拡張等、動作時の様々な要素が関係します。
黒人アスリートでも速さに違いがでるのはこうした理由からで、走りの中で体を上手く使えるか否か!といった身体操作技術が深く関与してくるわけです。
サニブラウン選手はこの、体を上手く扱うという点においてもトップスプリンターの位置に近づいたといってもいいでしょう。
近づいた???
そうです!彼はまで近づいたに過ぎません!
だから彼にとって9秒99はまだほんの序章に過ぎないのです。
願わくばサニブラン選手には、+5度の前傾トレーニング『かるのび~kaRuNobi~』を実践していただき、みずからの動きをさらに敏感に感じて欲しいものです。
常識には左右されない

常識・固定観念・先入観と潜在能力の関係
サニブラウン選手の走りはお世辞にも綺麗な走りとは言えません。体もブレて今回のレースでは後半でかなり力も入ってしまいました!
それでも9秒99なのです。この辺りが彼のポテンシャルは凄い!と言われる所以だと個人的にはみています。
常識というフィルターをはずせ!
多くの競技経験者や専門家諸氏が彼の走りが良くなったとコメントしています。
しかし果して本当にそうなのでしょうか?
あくまで私見ですがここには心理的な圧の作用が働いていると考えます。
アメリカでより専門的な指導を受けその結果が《9秒99》なのだから、「彼の走りが変わった」という“強い想い”を専門家や経験者が抱いたとしてもおかしくはありません。
短距離王国のアメリカでしっかりトレーニングしてるんだから、フォーム(専門的にはメカニクスという)がよくなってるのは当然だ!
日本人でありながら9秒99を叩き出した(10秒を切った)のだから、フォームが良くなって当然だ!という心理的な無心圧力の作用です。
これは人間なら誰しもが陥るいわば見かけ上の“罠”といってもいいでしょう。
多くの場合、こうした常識・先入観というフィルターが外せないため、往々にして視点がズレてしまうことが良くあるのです。
果して走りは良くなったのか?
走りが良くなったかどうか?と言われればそれは「良くなった!」とTM鈴木も回答するでしょう。
しかしそれは他の専門家や経験者と違い走るフォームが良くなったからではありません。多くの解説者がブレなくなった!とコメントしていましたが果してそうでしょうか!
実際サニブラウン選手の走りは今だにブレているし、脇があまい!?し、加速自体も決して良くはありません。
でも!9秒台が出てしまうのです!
走り自体は決して良くないのに9秒台を出せること!そのことがサニブラウン選手の速さの本当の秘密です。
サニブラウン選手が慣れ親しんだ走り方の根本を変えずに指導できるアメリカの指導環境、それを形成する器の大きさではないでしょうか。
皆が海外に目を向けるわけ
近年練習拠点を海外に移したり欧米の指導を受けるスタイルはスポーツ界のトレンドです。
バレーボールの石川選手(シエナ)しかり、マラソンの大迫傑選手(ナイキオレゴンP)しかり、海外でプロとして腕を磨くことの重要性が注目を集めているのはなぜか?
月とすっぽん
海外特にアメリカでは指導者が選手のメカニクス(フォーム)をいじることはほとんどありません。
知識・指導技術の引出しが桁違いに蓄積されているため、才能があると見込まれればどんな走りであろうと、現状の走りを元にしたトレーニングプランを組めるのがアメリカの指導者なのです。
対して日本は「その動きをこうしてみよう!」という指導者の考えうる範囲でしかゴールを目指すことができません!
だからその形が悪いと判断されると走るフォームをすぐいじることがよくあります。
形が悪かろうがよかろうが、その人の持つポテンシャルを引き出せる容量が比較にならない程違う!指導ポリシー(考え方)がまったく違うのです。
サニブラウン選手も普段の指導で彼の走りに手を加える環境にはないと考えていいでしょう。
逆に言えばそういう環境に身を置きたいと考えたとしても不思議ではありません。
彼の自由奔放な性格からすれば下手にフォームをいじるような指導をされると速さには繋がらないと考えるのが妥当で、だからこそフロリダの地に身を置いたことは正解といえるのではないでしょうか。
常識は通用しない勝負の世界
過去にはカールルイス、近年ではタイソン・ゲイ選手のようにブレない走りは速さにおける常識でした!
しかしウサイン・ボルト選手の出現で“その常識”は見事に覆されてしまったのです。
ボルト選手は体が左右にブレブレで走っていました!その前の世界記録保持者だったアサファ・パウエル選手も見事にブレていました。
加速前半から後半にかけては頭も前後に動く、これを骨盤前傾マニアは「コッコ走り」と命名しましたが、鳥が地上を移動する際に首を前後に振る様子に似ているからです。

トリの首振りは黒人スプリンター特有
因みに+5度の前傾である『かるのび~kaRuNobi~』はここが原型のひとつとなっています。
体がブレようとブレまいと速い人は速い!サニブラウン選手ももちろんこちらのタイプで、彼の後半の伸び(スピードの維持能力)は黒人のトップスプリンターに匹敵します!
注)NHKスペシャルでボルト特集をした際、側弯症だから身体がブレると番組側は表現しましたがこれは大きな間違いです。
ボルト選手やパウエル選手はえげつない程の骨盤前傾で走れるから方も“自然に”ブレているに過ぎません!
サニブラウン選手の今後

9秒99のその先を見つめて!
彼は今後さらに大きな“偉業”を成し遂げるのではないかと【骨盤前傾マニア】は密かな期待を寄せています。
彼独特の走りは他人には真似のできない唯一無二のもの!
それが彼を今後混血の“ハイブリット”としてでなく、生粋の日本人アスリートとして際立たせると期待しています。
ブレるのは当然!
元来利き手利き足があったり環境的にどうしても左右非対称にならざるを得ない人間は、当然ながら走る時にも体はブレてしまいます。
そのブレは修正して速く走るのか?それともそのままでも速く走れるようにするのか?で、サニブラウン選手が後者を好むのはカンの良い人なら誰でもわかることです。
極端に言えばブレてもすぐ元に戻せればまったく問題はないのです。ということは予め体の立体的にみた中心がわかってないといけません。
『かるのび~kaRuNobi~』はその習得過程で脊柱を含めた重心、中心点の把握を自然に身に付けることが可能です。
それができていないと横でも縦でもブレた時に直ぐに元には戻せないからです。
だから走る時にブレたり頭が上下するだのしないだのといったいわば“二の次”的要素に目を向けている時点で既に速くは走れません。
ブレや上下動を気にして直すくらいなら、まずは動作中自分の思い通りに動く体にすることが先決であり、サニブラウン選手にとっては後者の方が断然能力を伸ばせることがピンときたのでしょう。
2020は覚醒元年
令和元年は今年で最後ですが、サニブラウン選手の“覚醒元年”はいよいよ2020年に迫っています!
【骨盤前傾マニア】から観ると実はサニブラウン選手、まだまだ骨盤の前傾角が安定していません!
+5度の前傾『かるのび~kaRuNobi~』でしっかり走れるようになれば、自然に脊柱を”しならせる”動きで推進力にさらに勢いをつけることができるからです。
これはあのボルト選手や“白人最高のスプリンター”とも言われるクリストフ・ルメートル選手に共通する走り方であり、チーターが脊柱のバネを使って伸びながら推進力を高めるのと同じ方法なのです。
前傾を高めることは腕振りが甘いのを直すのと何が違うのか?
これは全く違います!
脇があまくとも推進力には影響しませんが、前傾角を変えることで地面に力を加える能力は直接速さに関わってくるからです。
地球上で動くなら地面に力を加えない限り推進力は得られません!
例えて言えば船を漕ぐとき櫓を入れて水の抵抗を感じながら力を加えるか、水から抜いて前方に櫓を入れるまでの間かの違いです。
賢いあなたならどちらが腕振りでどちらが骨盤前傾かはお分かりになるでしょう(^_-)
後半には世陸もある2019、そしていよいよ2020Tokyoは来年、決勝では日本人が誰も到達したことのない9秒8〇台の記録を望むのは期待し過ぎでしょうか!(^^)
これを読めばあらかたわかる
サニブラウン選手9秒99の本当の衝撃は、それが彼のMAXではないこと!
体はブレるが芯(心)はブレない!だから指導力が桁違いの異国の地に身を置けた!
見た目はハイブリッド!でも生粋の日本人として東京2020では100m決勝の舞台に!
そんな想いと感想を抱いたサニブラウン選手の9秒99、目指すは日本人が未だ誰も到達しえない9秒8〇の世界へ!
TM鈴木