「プロ野球の歴史で最も“凄い”スライダーの使い手はだれか?」といった問いかけは基本的には意味がないと考えています。
TPOが違うのですから比較すること自体がおかしいし、比較しても結論がでないし、良いことはないでしょう。
しかしそれでも比較したくなるのがファン心理というやつかもしれません。
過去を振り返り現在と比較することでまた新たな視点が観えてくる!ことを考えれば、こうした視点もまた大切なのかもという気もします。
そこで当稿ではある人物の一瞬の成功とチャレンジに迫り、そこから得られる教訓について検証してみましょう。
プロ野球で【両刃の剣】は確かに存在したようですが、カラダの操作感を高めることで予防できる可能性は飛躍的に高まります(^_^)
Contents
完全無欠のスライダー!
出典:https://goo.gl/JD2HZB
その「腕振り」は他の追随を許さない!?
プロ野球でスライダーとくれば、これはもう“あの人”を置いて他にはいません!
元ヤクルトスワローズ・ピッチャーの伊藤智仁氏です。
それ程、正に鮮烈なる印象を残した投手、彼が残した実績や軌跡から我々は多くのことを学ぶことができるでしょう。
スライドする“魔球”の使い手
出典:
https://goo.gl/ovDWGW
これを観たら誰もが納得!?
多くの専門家やプロ野球経験者はその高速スライダー(+150km/h前後のストレート)を褒めちぎっています。
現存する映像を観る限りNPB歴代投手でこの人程、そのスライダーが絶賛される人も珍しいのではないでしょうか。
なにしろ肩や肘の怪我が多く、(NPB7シーズン在籍)実働ほぼ5シーズン程度なのですからファンから忘れ去られても何の不思議もありません。
しかし今映像で観てもそのスライダーの “キレ” は他の追随を許さず、どんな大打者も打てるイメージが浮かばないのではないか!それ程の魔球なんじゃないかと(>_<)
全盛期に伊藤の球を受けていた捕手の古田敦也は「あの高速スライダーは捕手だからなんとか捕球出来ているが、もし自分が打者だったら絶対に打てない」と評し、プロ野球評論家の青田昇は「プロ野球史上で本当のスライダーを投げたのは、藤本英雄、稲尾和久、伊藤智仁の三人だけ」と評価し、そして当時の監督だった野村克也をして「長いこと監督をやってきたけど、あいつがNo.1だよ」[6]と言わしめた。 出典:https://goo.gl/RRqv2F
それ程の鮮烈な印象を残す彼のスライダーですが、TM鈴木がそのボールよりも凄い!と思ったのはその「腕振り」の妙!です。
“軌跡”の腕振り
image1:
投球動作シークエンス
矢(や)を目一杯引くように投球腕の肘を後方へ引っ張りながら、内側に捻じりつつ(内旋+回内:ボールを持つ掌が下外側を向く)、可能な限り後方(2塁方向)に引いてタメをつくっています(コッキング前期)。
そこからジワジワと腕を挙上しつつ外側に捻じり(外旋+回外:ボールを持つ掌が1塁側を向く)、さらに加速期で一気に捻じり戻し(内旋+回内)が起こり、腕を内側に捻りながらボールをリリースしていきます。
このコッキング後期での肘の折りたたみ(屈曲)から、それこそ一瞬の “爆発的” ともいえる威力をつけて捻じり戻しながら肘を伸ばしていく動作は圧巻です!
ほぼ完全に肘を曲げている状態から一瞬にしてほぼ完全に伸ばしていく、この肘(腕)の使い方はおそらく誰も真似ができないでしょう。
伊藤投手(当時)のスライダーの“キレ”は、一瞬にして起こるこの爆発的な肘の曲げ伸ばし動作によって生まれると考えるのが妥当です。
こうした腕振りの妙を引き出せる動きは彼の天性ともいえ、だから誰も真似のできない程の魔球が生まれたのかもしれません。
【両刃の剣】がみずからをも傷つけた!?
伊藤投手の武器でもあるこの「腕振り」はピッチャーとしての大きな武器となる反面、自らをも傷つけてしまう両刃の剣となってしまったことは残念としか言いようがありません。
当時は「先発完投」と言う言葉がプロ野球を支配していた時代でしたから、球数制限なんて夢のまた夢だったのでしょう。
伊藤がルーズショルダー(非外傷性肩関節不安定症)である事を首脳陣は理解していたため、コーチ陣は故障を危惧し登板回数・投球回を減らすよう促すが、監督の野村克也はその助言を聞かずそれがシーズン中盤の故障に繋がった。この事に関し、野村は監督退任後に「積極的に登板させた事によって彼の選手生命を縮めてしまった。申し訳なく思っている。」とコメントしたが、伊藤自身は「野村克也監督を恨むことなんてないです。むしろチャンスをもらえた。気にもかけてくれた」と語っている。出典:https://goo.gl/anScfr
「太く短く」の典型ともいえますが、今動画でみてもファンに鮮烈な印象を与えるその高速スライダーの威力は唯一無二といっても過言ではありません。
『能力をコントロール』する【脳力】を育む
image2:
肘の屈曲から伸展動作が“爆発的”
トレーナーの立場からすれば、伊藤投手の軌跡を反面教師とすることで、さらにレベルの高い選手達が現れてくるのではないかと考えます。
彼がなぜ一瞬の閃光でしか輝けなかったのかを知れば、その対処法に目を向けることは大いに意味があることです。
脳で感じるカラダ感覚
MLBやアメリカスポーツ界では当然のことですが、現在はNPBや日本のスポーツ現場でも「投手の肩・肘は消耗品」という考え方が進行しています。
だから投球数が厳格に(特にアメリカでは)規定され、アマチュアレベル(中・高・大学)でさえも複数投手制を採用し、投手を守っているのです。
ある意味調子の良いときは何をやっても成功し、結果も付いてくる!そんな経験をしたアスリートは少なくないでしょう。
伊藤投手の全盛期はまさしくそんな感覚だったのかもしれません。
調子がいいからブレーキをかけることができなかった!いやブレーキをかける感覚を持てなかったといった方が正解かもしれません。
カラダを操るのはあくまで脳なのですから、脳が感じるカラダ感覚が大切なことはいうまでもありません。
カラダ感覚を身に着けるためには、常に身体に加わる(外部からの)刺激に対して敏感であることが求められます。
カラダ感覚を知る意義
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一見すると関係ない!?が
その本質に目を向けるべき!
敏感であるためには様々な動きを経験することであり、体の中で使われない部分(筋肉・腱・膜etc)がないようにしておくことです。
プロ野球選手だからといって野球動作に関係することだけをやっていては、カラダ感覚は磨かれません。
スポーツには各競技特有の動作特性があり、指導者は早く技術を高めてもらえるよう(その競技において一定以上の結果が得られるよう)関連する動作を中心に指導します。
するとその動作に関係のない動きは必然的に排除、または採用されなくなることにより、選手の動きはその競技においては洗練されますが、他の動きが疎かになってしまうのです。
カラダ感覚の点からすれば特定の動作の繰り返しだけでは、本来人が動くための機能を維持することは困難と言わざるを得ません。
様々な動作を日々経験していることが本来の身体能力を高め維持し、運動(脳)力という応用・汎用性に繋がるのですから!
物事を突き詰めるための最短距離を考えることも大切ですが、回り道は決して無駄ではなくむしろ様々な点において恩恵をもたらすことを知るべきでしょう。
みずから得た経験を糧に!
伊藤投手は確かに投手としての能力はトップレベルでしたが、このカラダ感覚をコントロールするための『運動(脳)力』は不足していたのかもしれません。
投げる能力をコントロールするための『脳力』があれば・・・、あるいはその知識を持ち指導できる技量を持つコーチとの出会いがあれば・・・、彼はその印象だけでなく記録にも名を刻む大投手になっていたかもしれません。
しかし伊藤投手は自らのカラダに刃を向け傷ついてしまったことで、大切な教訓と経験を得たといえるでしょう。
伊藤氏は今季14年間在籍した東京ヤクルトの投手コーチを辞め、来シーズンからは独立リーグ富山GRNサンダーバーズ監督に就任することが決まっています。
“魔球”スライダーを生み出す天性の「腕振り」が、彼の指導を受ける投手達に受け継がれることを期待し、大きなケガなく現役生活を全うできるアスリートを生み出してほしいと節に願っています!(^^)!
まとめ
出典:
https://goo.gl/5SQS8o
その“魔球”といわれたスライダーばかりが注目を浴びますが、彼の『腕振り』は時に投手の限界をも超越する美しさや力強さを示し、一方で弱さを露呈しました。
元ヤクルトスワローズ、伊藤智仁投手について「腕振り」という観点から迫ってみると、投手の能力を生かすカラダ感覚の重要性が示されました。
一見関係のない様々な動きでもそれらをとり入れ継続することで、脳への大いなる“刺激”として運動(脳)力を高めカラダ感覚を磨く手助けとなるのです。
チームを率いる立場となった伊藤(智仁)監督の選手・コーチ時代のチャレンジに、このカラダ感覚の視点を加えることで選手育成の幅が大きく広がるはずです。
新監督の思考や指導(脳)力に大いに期待しましょう!(^^)!
TM鈴木