前回は『速く走るコツ』を掴むための3要素「姿勢・腕振り・ピッチ&ストライド」について、トレーナーの視点を中心にお伝えしました。
今回は『速く走るための身体の使い方』を世界で最も速く走れる黒人スプリンターの動きを中心に観察しましょう。
中心となるのは《速く走るための指導では今迄にまったく触れられてこなかった》ポイント、走る際の骨盤の動き【傾き】です。
骨盤が大きく前傾する角度(APTA:Anterior Pelvic Tilt Angle)を持つ人種の動きの特性を主に2つの動作から読み解きます。
できればあなたご自身でその動きを体感してみましょう!
「こんなんで走るの(前傾角)ムリッ!」と実際に体感できれば大成功!(^^)!です。
黒人スプリンター達の骨盤の角度を体感することがこそがスタートなのですから!
Contents
新たな視点:骨盤前傾位の維持
image1:Anterior/Posterior Pelvic Tilt(骨盤前傾位/後傾位)
ASIS:骨盤の骨、腸骨の出っ張り;押すとゴリゴリ硬い
前回は腿をあげることで地面の反発力を得てストライドを伸ばしたり、前方への推進力が高まる方法を示しました。
現在までにこうした地面からの反発力(弾性エネルギー)を生むため、様々な手法でのトレーニング法やそのための体作りが取り入れられてきました。
ここからはまったく新しい視点に基づく走るための体の操作法とその動きを紹介します。
人種と骨盤の傾斜角
image2:100mのファイナリスト達;ほとんどがネグロイド
黒人スプリンター(ネグロイド系)は日本人等のアジア系スプリンター(モンゴロイド系)と比べ、生まれながらに骨盤の傾斜角(PTA:Pelvic Tilt Angle)が大きいと言われています。
日本人アスリートでも一般人に比べると5°程その角度には差があると言われますが、黒人スプリンターとの差はさらに5°~10°、場合によってはそれ以上のPTAの開きがあると言われています。
骨盤傾斜角は先天的、つまり生まれつきの骨格形態ですから、その人の生活や運動をするための自然で無理のない角度と言えるでしょう。
そういった意味で黒人スプリンターは元々、他の人種に比べて速く走るための“武器”を持っているということになるかもしれません。
元々速く走れる骨盤前傾角(APTA:Anterior Pelvic Tilt Angle)であり、その上に様々な科学的トレーニング等によって周囲の筋肉の働きを高速走行仕様に仕上げているのです。
オリンピックや世界陸上のファイナリストのほとんどが黒人スプリンターというのも頷ける話です。
日本人スプリンターは黒人スプリンターよりー5°~10°程(骨盤の)傾斜が緩いため、少なくともそれを補いAPTAを維持するためのトレーニングを積極的に行って初めて、同じ土俵に立つことができるのです。
指導できる人材がいない!?
しかしながら現実問題としてこのPTAについては日本でほとんど誰も研究や実践を行っていないというのが現状です。
PTAは歩くとき/疾走時の実際の動きでも黒人スプリンターと日本人のそれは明らかに違っているにも関わらず、殆ど研究対象になっていないというのは実に驚きです!
なぜそうなのか?を考えてみると「なるほど~」というのがわかります。
選手であれ指導者であれ、誰も実際に骨盤の傾斜角を意識的に大きく前下方へ傾かせて走ったことがないからです。
APTAにして動いたり・走らなければその有意性や体に感ずるその感覚といった、日常とは違った視点がわかるはずもありません。
陸上のトップ選手なら走りについてはプロだし、その指導者も走りを教えることについてはプロでしょう。
しかしAPTAで走る(動く)ことについてはその理論は元より走り方も、そしてその教え方(どうやったらAPTAを維持して走りに生かせるのか?)さえもわからないわけです。
持って生まれた才能をフルに生かしている黒人スプリンターたちは、APTAでいることが普通なので(意識することがない)、これまたその有意性には気付きません。
こうして誰もAPTAの優位性が理解できず、従って(日本人の)走りの現場には生かされないというわけです。
黒人スプリンター特有の動作
image3:長い脚がさらに長く観える!?
地面を蹴ったあとの後方への伸びがハンパない!
黒人スプリンターは、特にトップスピードに達してから、足を前方に振り出す直前に同側の骨盤(腸骨)がグイッとしかもパワフルに前(上)方へ一瞬で動きます。
これは骨盤前傾位角(APTA)の大きな黒人スプリンターだからこそ、最も恩恵を受ける動きだと捉えることができるでしょう。
腸骨の動きが足に先行する!?
この『脚の前方振出しに先んじて起こる腸骨の瞬間的な動き』が骨盤傾斜角(PTA)が大きい黒人スプリンターでは非常にはっきりと観察できます。
TM鈴木はこの走る際の骨盤の時間差でおこる特殊な動きを以下のように名付けています
Iliacus Dinamic Momentum Ahead of Leg’s Forward Swing(IDM-LFS)
video image1 出典:https://goo.gl/4V1yix
前世界記録保持者のアサファ・パウエル選手(ジャマイカ)です。
たまたま黒パンに白系の縦ラインが入っていることで右足を着地直後に同側の腸骨(骨盤)がグイッ!と前方に動くのがわかるはずです。
特に5分54秒を過ぎたあたりからの最高速が出る40~60mあたりで、真横から撮影している画像ならその動きは最もわかりやすいでしょう。
右足が後方へ向かうのとは逆に同側の腸骨(骨盤)は前方へ向かうという、この相反する方向への動作が黒人スプリンターは特に大きいのが特徴です。
さらに右足が後方へギュッと伸びた反作用で左膝が最大限!あくまで“自然に”上がります。
この左腿の上がりは決して(腿あげの意識で)意図的にしたものではなく、あくまで右脚が後方へ最大限伸びた反作用なのです!
パウエル選手は白いジョギングシューズを履いていますし、あくまで撮影の為に走っているのでおそらくは本番の6割程度でしか走ってないでしょう。
従って白い縦ラインの角度は本番レースであれば、さらに前側にまっすぐ傾くとも推察されます。
6~7割程度の力で走っても腸骨の動きに一致する白い縦ラインは前方へのかなり大きな動きを示していること自体驚きです!
体感することの重要性
体感すればわかること、体感しなければ絶対にわからないことの典型がこの問題です。
『ボルト選手は走行中、なぜ身体が左右に揺れるのか?』
日本人を含め多くの研究者は従来の理論では説明がつかない!と考えたようですが、体の仕組みを知り体感していればおのずとわかる内容です。
APTAが大きく(IDM-LFS)によって扱いやすくなった体幹は、右腸骨が前(上)方に動くとき同側の肩甲骨がギュギュっと下方回旋します。
骨盤の前傾位や大腰筋を中心とするストレッチングテクニックは、TM鈴木考案の【ツブツブ:MF2-TsubuX2】を使っていただくことで体感することが可能です!
また『IDM-LFS』や骨盤前傾位角を走りに生かしたいと考える選手・指導者の方々、どんなトレーニングが有効か知りたい・体験されたい方はこちらまでご連絡ください。
体が左右に振れる理由(わけ)
IDM-LFSによって右(左)の腸骨が上がり、同時に同側である右の肩甲骨が下方回旋する(骨盤が逆側の斜め下方へ下がる/絞られる)のです。
この動きが走行中左右交互に繰り返されるため、同側同士の脇腹がギュギュっと縮むようになります。
同側の腸骨と脚と肩甲骨どうしが連動した形になるわけで、これがボルト選手が走行中に体が左右に揺れる要因です。
揺れるというよりは(上述した)片側の肩甲骨が絞られる(下がる)ことで、反対側が上がるためそのように見えたというのがTM鈴木の見方です。
実際にAPTAを維持し走ってみなければ(動いてみなければ)わからない感覚でしょう。
科学者が机上でいくら推論しても、日本人現役アスリートや指導者がいくら走りのプロとはいえわかるはずもありません。
彼らはこのAPTAを実際に体感して走っていないのですから!
揺れるのは左右だけではない?
APTAの効果は左右の振り幅の大きさだけではありません。
もっと顕著なのが前後の振り幅です。
右(左)の腸骨をグイッと前方移動する際に、頭も前方に振って前に移動するための勢いを増加させています。
video image2 出典:https://goo.gl/DQpu6A
100mスプリントを横から撮影したものですが、特に9秒前後からトップに立つ選手の頭の前方への振り出しは顕著です。
その他、35秒前後~一番手前(オレンジウェア)の選手や、56秒~からのボルト選手・ゲイ選手・パウエル選手といったトップが軒並み頭を前方に振り出しています。
結果的に頭を振出す動きになっていますが、それは脊柱が大きく『しなる』ことを意味しています。
特に黒人スプリンターは脊柱の柔軟で大きな『しなり』によって、この頭部前方移動で走りに勢いをつけて加速させる走りが顕著です。
逆に日本人は脊柱の大きなしなりを生み出せず、頭の前方移動による勢い付け動作をするスプリンターはTM鈴木が知る限り見当たりません。
昔からずっと姿勢を真っ直ぐにして走れ!と指導されてしまったことの弊害と言えるのかもしれません。
逆に海外の指導者や現場が真っ直ぐな姿勢で走れという話は聞いたことがありませんから。
とにもかくにもAPTAの効果はこうした脊柱のしなりを伴う頭部前後動作により、前方への推力を増幅するためにも使われています。
因みにTM鈴木はこの走り方を「コッコ走り」と名付けています。
腕振りの推力を使えないニワトリやハトが頭を前方に出して地上を進んでいく光景をイメージできるでしょう。
まとめ
image4:骨盤周りと裏側の発達した筋肉が躍動!
黒人スプリンターの走りには骨盤前傾位(APTA)を前提とする2つの大きな特徴がありました。
なぜAPTAを維持して走る必要があるのかと問われれば、背中側や体幹部の深部筋群を使いやすくし、動く際の推力が高まるからです。
前方への推力を得やすい背中・お尻・ハムストリングの筋肉の操作性を高め、力強く素速い動作に繋がるというわけです。
黒人スプリンターの走りのメカニズムで特にこのAPTAについて、今までほとんど研究される機会がありませんでした。
先天的だからといったある意味どうしようもない理由もありますが、その多くが実際に自らが体験・体感することを怠たり、机上での理論を元にした結果と言えるでしょう。
私、TM鈴木はこうした現状を少しでも変えるべく、自らのライフワークとなりうる新たな操作性の良い動きの探究を楽しんでいます(^_^)
そんなTM鈴木のワークアウト・セッションを体感したい方はこちらまでご連絡を!
多くのチャレンジャーをお待ちしています!(^^)!