平昌(ピョンチャン)オリンピックまであと2か月を切り、フィギアスケート男子は故障欠場中の羽生結弦選手に不穏な空気が漂っています。
今や男子フィギア界の常識となった4回転ジャンプ、羽生選手のルッツはじめ宇野昌磨選手が得意とするフリップ、ネイサン・チェン選手に至っては5種類の4回転を跳んでいます。
4回転時代に突入した男子ですが、このジャンプは良い意味でも悪い意味でも選手達にどんな影響を及ぼすのでしょうか。
そこでトップ選手達にのしかかる4回転ジャンプの肉体的・精神的ストレスについて迫ってみましょう。
4回転ジャンプの本質を知ればフィギアスケーターがどれだけの運動能力を有しているかが理解できるはずです!(^^)!
Contents
羽生選手が負ったケガの経過
出典:https://goo.gl/81npJu
特別枠という形で代表がほぼ確定している羽生選手ですが、11月のNHK杯で4回転ルッツの練習中に足首を痛めるというアクシデントに見舞われました。
ことのほか深刻な予感
先日、日本スケート連盟はメディアに対しこうした発表をしていますが、その内容は(もしかしたら)羽生選手の怪我がことのほか深刻な状況を示しているのかもしれません。
羽生結弦、腱と骨にも炎症「いつから練習を再開出来るかは、まだ決まっていません」スケート連盟が追加コメント発表 https://goo.gl/jEx1YR
当初は3~4週間で現場復帰できるとの見方でしたが、その予想は大きく崩れようとしています。
最悪オリンピック出場も危ぶまれる非常に重症ともとれる今回の発表(かもしれませんが)、なぜそんなケガになってしまったのでしょうか。
そこには4回転ジャンプの特徴であるカラダへの非常に大きな負担があるとTM鈴木は感じています。
負ったケガの個所が問題!
出典:「http://www.jprime.jp/articles/-/11164」
写真提供/共同通信社
羽生選手は実際にどこをケガしたのか?その詳細は未だ公表されていません。
何故日本スケート連盟(JSF)、および羽生選手サイドは詳細を発表しないのでしょうか?
実はケガをした瞬間のこの姿勢をみれば専門家ならある程度予想はつくといえるでしょう。
最初は右ひざの内側側副靭帯(MCL)かと・・・、実際には右足首しかも内側の捻挫(関節を繋ぐ関節包および靭帯の強制的伸展)ではないのかと言われています(←あくまで予想です)。
image1:
内踝(うちくるぶし)への負担は計り知れない!?
通常の内反(ないはん)による外側部の怪我ではなく、実際の画像からもわかるように外反(がいはん:足を外側に捻ること)による内側の靭帯損傷が疑われているのです。
(内側損傷と共に外反時に外側部の骨同士(外踝と距骨)の衝突というケースも考えられる)
靭帯損傷は靭帯の(部分)断裂を含むもので、そのケガを疑ってもいいような非常にレアな受傷機転(ケガの理由)かもしれません。
*****あくまで個人の予想ですが*****
深刻さ故の課題
image2:
外反捻挫(靭帯損傷)その完治は長期に及ぶ!
この箇所には脛骨遠位端の内踝(うちくるぶし:ないか)と呼ばれる突起部から、踵骨(しょうこつ)との安定機構でもある距骨(きょこつ)とを三角形に結ぶ三角靭帯があります。
三角靭帯は人体のなかでも特に強靭で中々損傷することはありませんが、今回の羽生選手のようにつま先が外側を向き足首が外反した際に多く観られる外傷です。
とても強固な結合帯ゆえ、一度損傷すると完全に治癒させるにはかなり長い期間を要するため、羽入選手のオリンピック出場が危ぶまれるケースも考えられるのです。
さらに言えば今後の選手生命にも関わる大けがの可能性も捨てきれず、羽生選手サイドとしては専門家のセカンド・サードオピニオンも含めて慎重にならざるを得ないのかもしれません。
4回転への戦略
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3アクセルのジャンプシークエンス
ご存知のようにフィギアスケートの4回転ジャンプには6種類ありますが、その基礎点は「トップ2」とも呼ばれる「ルッツ」と「アクセル」が一段階高いスコア設定となっています。
ルッツは別物!アクセルば別次元!?
4回転ジャンプ、特に羽生選手が現時点でプログラムに取り入れている「ルッツ」は、6種類ある4回転の中でも最高難度の大技であり、その分高得点(基礎点)が期待できます。
これはいわば同年齢の大谷翔平選手が165km/hのフォーシーム(直球)を投げるのと同じと解釈してもいい程のレベルなのです。
日ハム投手コーチである吉井氏が日本最速を更新した愛弟子について語ったことがあります。
「あんな(速すぎる!?)球を投げられたら肘や肩がぶっ壊れててまうっ!ハラハラしたわ!」とのコメント、まさに羽生選手もいつケガをするやもしれないというリスクを背負って演技していると言えるでしょう。
跳んだだけでは終わらない!?
image4:着氷への気配りが大切!?
当たり前の話ですがジャンプは高く遠くに跳ぶことで空中にいる時間(滞空時間)を長くできます。
長い時間空中にいられることで体をたくさん動かす余裕ができる、だから4回もの回転が可能になるわけですが、ここで問題になるのが着地(着氷←スケートの場合)です。
跳ぶことは完璧でもしっかりと着氷できるか否かが大きな課題となり、それもふくめて基礎点をもぎ取れるかが試されているわけです。
各々の選手は如何に綺麗にしかも負担なく着氷できるかにフォーカスしており、それが次の動きの勢いや滑らかさにも繋がり、全体的な流れの美しさとしての評価を得られます。
ジャンプのしやすさ/しにくさ!?
トップ選手達が次々に入れてきた4回転構成のプログラムですが、ジャンプの出来・不出来は選手各々の体型にも大きく影響されます。
手足の長い選手は素早く回るという行為に対し物理的に不利な体型といえるでしょう。
これは「慣性モーメント」と「角運動量保存の法則」という物理のルールにのっとっていて、回転している(回転)軸からの距離が短くなればなる程回りやすいということを意味します。
手足が長いかどうかはどうやってわかるのか?といえば、例えば真横に伸ばした中指先端間の長さをリーチとして、それを身長で割れば(リーチ/身長)その割合(数値)を比較できます。
こうした比較であれば例えば身長の違う羽生選手と宇野選手のR/H値(とでもいうのでしょうか)「リーチ/身長」比を比較できるわけです。
現時点ではあくまで見た目の印象のみですが・・・
○羽生選手=手足が長い⇒回転には不利
とも捉えられます。
体型による動かし方の差異
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手足の長さは時に仇となる!?
羽生選手を含め長い手足を持つ選手達はその腕をたたみにくいため、回る際(回転が多くなればなるほど)離氷!?から着氷までにより気を使わなくてはなりません。
逆に手足がそれ程長くない!?宇野選手(R/H値が小さいと仮定して)は、腕を折りたたむことが他の選手達に比べて難しくない体型をしているともいえるのです。
浅田真央選手(当時)が体が大きくなるにつれてなぜトリプルアクセルを跳ぶことが難しくなってしまったのか?も同じような理屈が当てはまります。
つまり彼女が日本人選手としては比較的手足が長く肩幅が広かったことが一つの要因というわけです。
腕を瞬時に折りたたむ必要があり、その最適なタイミングや時間を見つけ出すことはいくらトップスケーターといえど困難なことなのはいうまでもありません。
回るときは肩幅・リーチを含めた回転軸からの長さを如何に短くできるか!世界のトップ達はこうした課題に日々取り組んでいるのです。
4回転アクセルの可能性
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高さ!?or回転力!?
現在の4回転の最高峰である「4回転ルッツ」ですが、6種類あるジャンプの中でも「13.60」と最も難しい部類として認識されています。
では4回転の最高難度「4回転アクセル」、つまり4回転半は可能なのでしょうか?
プロ・トレーナー目線で検証してみると面白いことがわかります。
技としての多大なるストレス
4回転とはいうものの「4回転アクセル」は4度回ることに【+半回転】を加えなくてはなりません。
これはいくらスーパーアスリートといえど大変難しい動作であり、以下の5要素が揃って初めて可能となる大技です。
①助走速度
②踏切タイミング
③離氷技術
④回転&軸
⑤着氷技術
「アクセルは4分の1アンダー(回転不足)で転ぶくらいで、ある程度は回れる段階まできている」
出典:https://goo.gl/aJPCpo「Wikipedia」
羽生選手はこのように話していて、4回転アクセルの時代はもうすぐそこまで来ていると捉えることもできるでしょう。
ただ大技には常に(最悪の)リスクもつきものである!ということを理解した上で取り組むことを忘れてはなりません。
選手とすれば勝利者としての「勝ち」に拘るのか、(4回転アクセルを成功させたアスリートという)探究者としての「価値」を重要視するのかというところかもしれません。
「高く跳ぶ」ことにこだわるのか、「素早く回る」ことを最優先するのか?
4回転の為のトレーニングはまずこの2要素について深く探る必要があります。
必要なのは?体の使い方の再教育
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4回転に必須!
【F-APTA】体の使い方
選手の体型や動き方などから最適な方向へシフトしていければトップ2(ルッツ&アクセル)を除く4回転ジャンプなら比較的余裕を持ってこなせることは周知の事実です。
しかしこれが「ルッツ」や「アクセル」となればまた話は変わり、現在の4回転ための体の使い方を根本的に改善していくことが成功へのカギとなるでしょう。
なかでも機能的【骨盤前傾位:F-APTA】は選手の動きに対する潜在意識に大きな変革をもたらし、(しなやかでいながら力感のある)動きの洗練性を高める方法としてとり入れるべき動きでしょう!
F-APTAは単なる骨盤前傾ではなく、骨盤より上の上半身、特に腹腔内を上方へ引きあげ背部・臀部・ハムストリングといった推力を高める部位の働きを格段に高めます!
さらにハムストリングの座骨に近い側の付け根である、筋腱移行部のバネ作用を高めることにも貢献します。
アキレス腱・膝蓋腱(おさらと脛骨を結ぶ腱)と共に、坐骨付近;筋腱移行部のバネが働き始めると、ジャンプの質は根本から変わると言われ今注目を浴び始めているポイントです!
機能的【骨盤前傾位:F-APTA】についてご興味ある方はこちらまでご連絡を!
本質に目を向ける!
4回転ジャンプの到来は男子フィギア界にとって確実に!確かに!大きな流れとして押し寄せてきました。
しかしフィギアスケートは大技そのものを競うだけのスポーツではなく、技の滑らかさ・技から技へのスムースな流れ等といった芸術的要素が高い採点競技です。
ダイナミックな4回転は確かに人々を魅了しますが、それだけではないのもまた真実でしょう。
全体的な流れやその選手が持つ雰囲気をも含んだトータルな「美しさ・華やかさ・猛々しさ」を観れることに価値(勝ち)があるように感じます。
荒川静香選手が日本人で初めてオリンピックチャンピオンになれたのは、(もちろん当時の採点基準等もありますが)ジャンプだけではなく直後の着氷や優雅な動きに徹底してこだわった結果でしょう。
4回転ジャンプを決めることは自らへのチャレンジでもあり、その決断は賞賛されるべきものです。
しかし少し立ち止まって進むべき道を再考してみることも重要でしょう!
「4回転こそがみずからの勝ち(価値)を最高位に導く本質なのか?」とね!(^^)!
まとめ
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大技か?芸術性か?
今や4回転ジャンプ時代に突入したフィギアスケート男子、そのジャンプの難しさと肉体的・精神的ストレスについてプロ・トレーナーの目線から検証しました。
羽生選手が故障欠場する原因となった4回転ルッツを始め、未だ誰も成功者のいない4回転アクセル等へのチャレンジは困難にあえて立ち向かうアスリートの本能とも言えるでしょう。
4回転を成功させるには身体の使い方を根本から変える手段も必要であり、一方で自分の体型や動きの特徴を深く捉え、「高さ・回転・それ以外の要素」のどれを重点的に高めるかが重要でしょう。
4回転の本質とは、世界トップがキャリアエンドになるかもしれない故障リスクと対峙しながらの勇気あるチャレンジに尽きるのかもしれません!(^^)!
TM鈴木