4回転ループを実現した骨盤操作の極意!羽生選手の上手な身体の使い方に迫る

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今年のNHK杯は羽生結弦選手がSP:103.89、FP:197.58、トータル:301.47で優勝しGPファイナル出場が決定しました。

自身2度目のトータル300点越えも経験し今シーズンのフィギュア男子も羽生選手を中心にまわっていきそうな気配です。

それにしても羽生選手、なぜこんなにも強いのでしょうか?

過去の彼の演技、そして試合までの準備をみていると精神力がひとつのキーワードになりそうです。そして技術、特に身体の使い方にも強さの一端が伺えます。

そこで本稿ではアスリートにおける身体の操作法と心の向き合い方についてフィギュアスケートを通して探ってみました。

多くのファンを魅了する羽生選手の身体や心の特徴を一緒に検証していきましょう!

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ジャンプの最高峰に挑む!

ジャンプ

羽生選手は演技構成の中で様々な“武器(決め技)”を持っています。その殆どが最高評価の「レベル4」がつくスピンしかり、確実に加点の付くトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)しかりです。

特にトリプルアクセルはその踏切方法の工夫や、ジャンプ直前の難易度から常に加点(GOE:出来栄え点)が期待され、確実にハイスコアが狙える要素になっています。

さらなる高みへ!【4回転ループ】

そんな演技構成をさらに高めるジャンプを今季から本格的に導入した羽生選手、今最も力をいれているのが【4回転ループ】と呼ばれるジャンプです。

4回転の中でもかなり難しいジャンプに分類され、2016年9月30日にモントリオールで開催された「オータムクラシック」のSPで初めて成功させました。

練習では羽生選手を含め過去にはティモシー・ゲーブル選手や本田武史選手等、何名かが成功させてはいますが、公式戦で成功させたのは羽生選手が初めてです。

4回転ループの難しさ

6種類ある4回転ジャンプの難しさは基礎点と呼ばれる以下のスコアで現されます。

・4回転トゥーループ :10.3

・4回転サルコウ   :10.5

・4回転ループ    :12.0

・4回転フリップ   :12.3

・4回転ルッツ    :13.6

・4回転アクセル   :15.0

【4回転ループ】はスコアでいえばちょうど優しい方から3番目です。なぜこのループが難しいのかと言えばスコアで見ると一目瞭然ですね。『4回転サルコウ』が10.5なのに対し、【4回転ループ】は12.0と、なんと1.5点も加点されています。

【4回転ループ】は後ろ向きに滑ってきて、左足を少し前に出しつつ右足のエッジでを使って『ギュン』と踏切り、4回まわって後ろ側から右足で降りるジャンプです。

この史上初の快挙を成し遂げた羽生選手のコメントによれば、【4回転ループ】は「シュッとやって、パッと降ります」でてきてしまうのです。やはり彼はその能力を持ってして「天才」に相応しいのかもしれません。もちろん本人の相当な努力がその実を結んでいることに疑いの余地はありませんが。

4回転ジャンプのメカニズム

高難度ジャンプにおける条件はその高さと回転の速さにあります。当たり前の話ですが空中で4回も回るにはその高さが十分で速く回転しなければ回りきることはできません。

そして高さを出すためには前準備段階の助走速度がもの言います。ある調査によれば羽生選手の4回転トゥループ直前の助走速度は6.9m/秒、この数値はトップ選手の中でも断トツに速い助走速度ということです。

幅跳び型か高跳び型か

さらにジャンプの仕方にも違いがあります。①「高跳び型」と②「幅跳び型」という跳び方があり、前者はジャンプ時の①上昇速度が前進速度よりも速い、後者は②前進速度が上昇速度よりも速いタイプです。

羽生選手のソチ五輪時の記録では垂直速度が2.62m/秒に対し、水平速度が4.29m/秒で②タイプに属し、その差はなんと1.6倍強にもなります。つまり超幅跳び型のジャンプをしているわけで、今回の4回転ループの場合だとその差はさらに広がっていると考えてよさそうです。

【シュッとやってパッと降ります】

右脳と左脳

25(金)のSP直後、冒頭の4回転ループで着氷が乱れ、GOE(出来栄え点)がマイナスなったこと、そして4回転ループのコツについて羽生選手は次のように答えています。

「正直、もうちょっと。点はもっともっと伸びしろがある。4回転ループをきれいに降りられれば、5点以上は伸びる」、「シュッとやって、パッと降ります」と、ミスタープロ野球・長嶋茂雄氏ばりに擬音で表現。「シュッが足りない。シュッというタイミングが足りないかなと思う」と、力説した。

出典:headlines.yahoo.co.jp/hl

脳内のイメージ化

羽生選手の頭の中はつまりこういうことなのでしょう。物事を難しく考えず自分の頭の中で理解できる単語に置き換える、そうすると脳内に映像化しやすくなり、イメージとして捉えやすいというわけです。

脳内のイメージ化はその「タスク」の理解度に繋がります。羽生選手でいえば4回転ループの理解度が脳内でイメージできているからこそ、そういった独特の擬音を用いた表現になったのでしょう。

右脳派?左脳派?という概念

人には「利き腕」や「利き目」があるように、脳にも「利き脳」があると言われます。右脳とか左脳という話をあなたも聞いたことがあるでしょう。

医学的には「右脳・左脳」の違いが証明されているわけではありません。血液型と同じ、「どうやらそのタイプに入りそうだ!」みたいな感じで一般的に言われているのが真相です。

右脳と左脳の特徴について簡単に触れてみましょう。

「左脳」は論理的で言語力、計算力、物事の分析力・推理力に優れています。例えば、次のような言葉で表現出来るでしょう。

論理的である。計画性がある。正確性が高い。理性的である。規則的・実証的・現実的・科学的・そして実存的な考えを持つ傾向があるといえます。 

科学者に多いタイプといえそうですが、実際にはどんな人でも両方の脳を使っているのです。ただその割合が違うということが現代科学ではすでに明らかにされています。

右脳優先の魅力

直感力に優れる右脳は五感で感じる感覚・感性を総合的に認識し、判断することのできる能力とされます。音楽、芸術等に秀でる人に多いといわれイメージ脳、芸術脳とも言われます。

その最大の魅力はなんといっても空間認知力に優れていることです。空間認識、スポーツでいえばある空間の中で自分のいる位置を“直観的”に把握できる力です。この能力が高いと動作そのものに余裕が生まれ次の動きにスムースに移行しやすくなるのです。

フィギアスケートはひとつひとつの動作の間にある流れ(移行期)も大変重要視されます。採点の判断基準になることはありませんが、流れが途切れないようその【間】を如何にスムースに移行するかで次の動作の【質】が大きく変わってしまうため、演技に雲泥の差がでる重要な要素なのです。

おそらく羽生選手はこの右脳優先の“脳使い”をしていると考えられます。事象を簡単に捉えイメージ化できれば考え方や実践も簡潔に行えます。余計なことを考えずにそのタスクを完成させるためのプロセスをズバッとできることが【右脳優先】の強みです。

身体の機能を最大限に使う能力

ジャンプする

羽生選手の強みは例えばジャンプでの刻一刻と変わる状況で、上手に身体の各所をその動作に合わせることができる骨盤の操作技術です。一瞬のうちに姿勢に変化を持たせて跳び、着氷では衝撃を極力身体に残さないことで次の動作に移行しやすい状況を作っているのです。

氷上の特殊な環境

フィギュアスケートではスケート靴がハイカットで足首を覆ってしまうためアキレス腱のバネ機能がほとんど使えません。その為、地上であれば80cmは跳べる選手であっても氷上では20cm、もしくはそれ以上跳躍力は落ちてしまいます。

実はその強力な機能が使えずとも他の組織で代用できるバネが存在するのです。それが腿裏にあるハムストリング(大腿二頭筋)です。

ハムストリングが付く坐骨付近は【筋腱移行部】と呼ばれ非常に強力なバネの作用を持っています。このハムストリングのバネを使うための条件はただ一つ、「使う直前にできる限り目一杯伸びた状態にする」ことです。

ジャンプの秘訣とは?

ジャンプ、特に4回転ループは踏み切る際に右脚で「ギュン」と一度しっかりと沈み込まなくてはなりません。そうしないとまずもって高く遠くへ跳べないのです。

しっかり沈み込むために腿を使う→だから腿(脚力)を鍛える

今まで当然の“常識”とされてきたその考え、間違ってはいませんが、正確ともいえません。腿を使う動作は一般的ではあっても身体の構造上、非効率的ですぐに疲れてしまいパフォーマンスがガクンと落ちやすいのです。

ではどこを使えば良いのでしょう?

実はハムストリングや臀筋群を使います。この身体の使い方がジャンプを鋭く高くする秘訣であり、黒人アスリートでバネがある!と言われる選手は身体の裏にあるこの筋肉の使い方がとても上手です。

ハムストリング・臀筋群・下背部といった裏側の筋肉を使うためには骨盤が前傾していることが絶対条件です。なぜならハムストリング(腿裏)が最大限伸びて一気に縮まる【バネ】の機能を利用することができるからです。

腿裏のバネを使うための骨盤操作法

【バネ】とはその両端を引っ張るとその分だけ元に戻ろうとする力のことです。別名「復元力・弾性力」とも呼ばれています。

引っ張る力(張力)が強ければ強い程その復元力(縮み方)は凄まじく、ハムストリングで言えば坐骨に近い【筋腱移行部】にある【バネ】の作用を使うことであと十数センチは高く跳べる可能性があるのです。

本来なら超強力な【バネ】の性能を持つハムストリング、その性能を最大限に引き出すにはハムストリングが最大限伸びた状態での踏み切りが必要で、そのためには骨盤前傾が絶対条件なのです。

跳躍の質が違う理由(わけ)

フィギュアスケート男子

羽生選手の4回転ジャンプは他の選手に比べ骨盤をとても上手に操作させているという特徴がその動きから伺えます。

骨盤操作:踏み切りでも着氷でも!

右足でグッと踏み切る際に骨盤を最大限前傾させハムストリングを最大限伸展位にもっていき【バネ】の機能を使って跳躍しているのです。一方着氷時は骨盤をタイミングよく後傾させることでハムストリングのバネ機構を弱め、上半身が折れ曲がるのと合わせ衝撃を上手く吸収・分散させています。

この跳び方(着氷方法も含む)であれば太腿の筋肉の使用が最小限に抑えられ、特に長丁場のFPで後半加点されるジャンプ構成に体力を温存したまま望めます。ジャンプの衝撃を骨盤の傾斜角を変えることで弱めながら次のスケーティングにスムースに入れるのは、こうした特殊な使い方を自然にできるからだと考えられます。

羽生選手は知ってか知らずか、スケーティング中のこの骨盤操作が非常に上手です。他の選手には絶対に真似のできない比類なき才能がそこにも潜んでいるというわけです。

こういった上手な身体の使い方ができるため本人にとってはまだまだ身体的に余裕があり、だからさらに難度の高いジャンプ構成にも挑戦することが可能なのでしょう。

新たな発想と実践が育む新境地

羽生選手のようにしっかりとした骨盤前傾位を維持しながら動けるアスリートは日本にはほとんどいません。そもそも骨盤の傾斜角度に気を配るなんていう考え方は日本のトレーニング界には存在せずある意味とても斬新!?な考え方といってもいいわけです。

言うならばまったく新しい身体の使い方であり、もしかすると運動能力が倍増する身体操作方法になるかもしれません。なぜなら未だかつて誰も行っていない指導法であり、選手さえもそこには注目していないのが現状なのですから。

理想的な動きの伝わり方:身体の中心→末端

骨盤を前傾位にさせる操作法は理想的な力の伝わり方にも貢献します。

ジャンプの踏切動作では身体の中心から末端の順序で、両部位の動く時間差を少なくして跳ぶことが理想的な跳躍の条件です。

股関節伸展→膝伸展の順序で踏み切る方が、膝伸展→股関節伸展よりも筋肉を効率的に使えて、高く跳べるというわけです。前者は太腿の筋肉の貢献度を最小限に抑え体力の温存によって後半のダイナミックな演技を継続可能な戦略がとれるというわけです。

スピンについても同様のことが言えます。腕を広げれば回転は遅くなり、たためば回転は速くなります。4回転ジャンプでは如何に腕を素早くたためるかが余裕を持って速く回るためのカギとなります。

しかし腕を素早く安定してたたむためには、①肩甲骨を背骨側に引き寄せる(絞る)内転動作で始動し、その動きにつられて末端の、②腕をたたむ動作方が起こるという順序が身体を速く回しやすくするのです。

この速く回転しやすくする動作にも骨盤前傾による身体の操作法が深く関わっていることを知っている人はほとんどいません。

羽生選手が見据える次なる目標

未来

足腰を強靭にすることはある意味誰にでもできます。これは努力によって可能なのです。しかし動作中の骨盤の傾斜角を変えるというのはある意味才能といってもよく、ごく限られたスーパーアスリートだけが持つ能力といっても過言ではありません。

羽生選手は将来的に4回転の連続や未だかつて誰も成功したことのないクワッドアクセル(4回転アクセル)をモノにすることも見据えているかもしれません。

どんな境地へ到達するのか!? 今後の羽生選手の活躍を楽しみながら是非、彼の自然で上手な身体の使い方にも注目してみましょう。

ジャンプでの踏切り時、そして着氷時の骨盤の動きから目が離せませんよ!

TM鈴木

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