横綱白鵬、鋭い【立ち合い】がもたらす強さの秘密:身体の上手な使い方に迫る!

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大相撲九州場所が活況を呈しています。

豪栄道の綱取りがかかる今場所でもあるからに他なりません。

もし日本人横綱が誕生するとなれば第66代横綱若乃花以来約18年振りの快挙になりますが、結果はどうでるでしょうか?

そして横綱白鵬は九州場所3日目に通算勝ち星1000勝を達成しました。白鵬はもちろん、日馬富士や鶴竜の横綱陣も虎視眈々と賜杯(しはい)を狙っていることでしょう。

それにしても4代連続で続くモンゴル出身横綱ですが、特に白鵬のその強さは際だっています。なぜ第69代横綱はあれ程強く安定しているのでしょうか?

本稿では横綱の強さの秘密を四股の動きから検証してみましょう!

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白鵬の生い立ち

モンゴル

通算勝ち星1000勝は歴代2位の1045勝の記録を持つ元横綱・千代の富士と、歴代1位の1047勝を挙げた元大関・魁皇に続き3人目の快挙です。

年6場所ある大相撲、このままいけば来年夏場所には記録更新は間違いないかもしれません。

裕福な家庭に生まれ育つ

白鵬翔(本名:ムンフバティーン・ダワージャルガル)のお父さん・お母さんについてウィキで調べると以下のようにありました。

父親のジグジドゥ・ムンフバトはブフ(モンゴル相撲)で、5年連続6度の優勝をした元アヴァルガ(大相撲の横綱に相当)で、メキシコ五輪のレスリング重量級銀メダリスト(モンゴル初の五輪メダリスト)となったモンゴル国の国民的英雄である。母ウルジーウタス・タミルは元外科医でありチンギス・ハーンの流れを汲む家柄の出だという。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/白鵬翔

横綱はお父さんの身体的特徴を特に受け継いだといってもいいかもしれません。それにしてもお母さんは元外科医とは・・・、しかもチンギス・ハーンの流れを汲む家柄って・・・(汗)

知的な性格はお母さんからの遺伝なのでしょうか。

格闘家でもある父:ジグジドゥ・ムンフバトは息子:ダワージャルガルが大相撲に入門したいとの意向を承諾していましたが、母タミルは大反対でした。

母はゆくゆくはダワージャルガルに学者になってほしかったそうです。きっと賢い子どもだったのかもしれませんね。

でも息子の願いを渋々聞き入れました。経済的に裕福で大きな苦労も知らず、のびのび育った息子が、日本での厳しい修業に耐えられるはずがないと考えたからです。

紆余曲折の所属部屋探し

そうこうするうちに、ダワージャルガルが6人のモンゴル人と来日、秋真っ盛りの2000年10月のことでした。しかし同僚の6人が次々と所属部屋が決まっていく中、小柄な白鵬に目を付ける部屋は最後までありませんでした。

当時日本語が分からなかった白鵬少年は英語で”I don’t want to go back…”と言って泣いたそうです。部屋が決まらなかったため、失意の帰国かという矢先、クリスマスイブの12月24日、彼を哀れんだモンゴル出身の先輩である旭鷲山が自らの師匠の大島(元大関・旭國)と相談し親方の友人であった宮城野部屋への入門がやっと決まりました。

日本での部屋が決まらず失意の帰国かと思われたどん底からなんとか這い上がろうと、白鵬は重大な決意を持って稽古に打ち込み、歯を食いしばって毎日を過ごしていたことが伺えます。

宮城野部屋への入門後は当初の母の思惑とは違い、ダワージャルガルは初来日からその後2年半に渡り一度も帰郷せず日本で相撲に打ち込んだそうです。

入門当時身長175cm、体重68kgの体は、大食漢で稽古熱心なこともあり一気に成長し、身体の成長に合わせて番付も急上昇していきました。

その後は幕内・三役・大関・横綱と、途中色々とあったようですが現在の地位に駆け上がり、その活躍はご覧の通り、まさしく角界を引っ張るリーダー的存在となっています。

強さの秘密はどこにあるのか?

the secret of his advantage

科学分析によって明らかになった白鵬の秘密がメディア等で公開されました。確かに驚くべき数値ですが、秘密は他にもありそうです。

立ち合いの速度

白鵬の動きを分析した中京大スポーツ科学部の湯浅景元教授によれば

「けいこを積んで鍛えると、肩から首のあたりの筋肉が盛り上がってくる。すごく盛り上がっている力士は強くて、それがなくなってくると弱い。まずは、そうした傾向がある」

一方、脚力については一般の人たちの1.1倍しかなかった。「これでは100キロを軽く超えるような体重を支えるのには十分とはいえない」と説明する。上半身はたくましいが、下半身はもろい。それが一般的な力士の特徴といえそうだ。

しかし相撲を見ていて、白鵬は違うのではないかと感じたという。下半身が強そうで、スピードがある。

出典:http://www.nikkei.com/article/DGXMZO84435650W5A310C1000000/

科学者の視点で物事を観るとまた違ったことがわかりそうです。

前述の湯浅教授は白鵬の立ち合いの速度を測定しています。

その結果は4.0m/秒、因みにウサインボルト選手(100m世界記録保持者)のスタート直後の速度は4.1m/秒とほぼ同等です。あの偉大な横綱、千代の富士が3.9m/秒(183cm127kg)ですからそれよりも立ち合いが速いということになります。一般の力士だと2.5~3m/秒ということですから、これでは横綱にまったく歯が立つはずがありません。

横綱の立ち合いの速さ・鋭さは【アスリート】として突出していると言っても過言ではないでしょう。

立ち合いが速い理由(わけ)

実はここからが問題の本質です。

メディアは横綱の立ち合いの速さは激しい稽古や白鵬の身体の柔らかさに起因すると述べています。専門家(科学者)も同じような意見です。

果してそうなのでしょうか?「立ち合い速度」の要因について探ってみましょう。

画面上から見るとよくわかりますが、白鵬の立ち合いは他の力士と違いかなり背中が弓なりになっています。この姿勢は前横綱の朝青龍もほとんど同じです。

そして現在のスポーツでは、例えばラグビーのスクラムでもアメフトのタックルの基本姿勢もこの背中が弓なりになった姿勢が用いられます。

立ち合いのこの【弓なり】姿勢は何を意味するのでしょうか?

ポイントは骨盤にあります。前側に傾斜する【前傾】という骨盤の角度を維持したまま立ち合いをしているのです。【骨盤前傾】は様々な動きの機能を高めます。一方で骨盤を前傾するためには身体の機能が高まらないと難しくケガにも繋がります。

骨盤前傾が及ぼす2つのアドバンテージ

①太腿(大腿四頭筋)の力を極力使わずに重心をしっかりと落とせるエンドポイント

股関節は別名、ボール&ソケット関節といいます。

相撲の立ち合い姿勢のように骨盤を前傾しながら腰を落としていくと、ボールである大腿骨骨頭:凸と、受け皿(ソケット)である臼蓋(きゅうがい):凹が接触し、それ以上身体が下がらないでストップする【Bone to Bone Contact:エンドポイント】が必ずあります。これを『股関節のロッキング機構』といいます。

【骨盤前傾】によりこの【エンドポイント】に達した身体は最も低重心の状態となり、安定ししっかりとした土台が完成すると同時に鋭い踏み込みを可能にする準備が整います。

身体を太腿の筋力で維持するのか、骨同士の接触により関節がもうそれ以上動かない【ロック】した状態で支えるのか、どちらが効果的かは言うまでもないでしょう。

股関節ロッキング   股関節ロッキング2

②推進力を生み出す裏筋(うらきん)の最大張力

【骨盤前傾】により『股関節のロッキング機構』が働くことで、さらに腿裏(ハムストリング)や臀筋群、背筋群が最大に伸びている状態(最大張力下)となり前に出る推進力を高める準備が整います。

例えるなら弓を土台にして矢を最大限後方へ引っ張っている状態です。「ビュン!」と勢いよく矢が飛び出すイメージが完成するわけです。行事の合図でその“矢”は驚愕の速度で的(相手)に当たります。

立ち合いの速さを生み出すカギ【骨盤前傾位】

しっかりとした低い重心を維持し、且つ前に出る鋭い踏み込み準備を整えているため速く・一気に相手の懐へ攻め込むことができるのです。

横綱は骨盤を前傾させることでこの【低重心】と【前への推進力】という2つの要素を高めているといっていいでしょう。だから横から観て背中が弓なりになるし、お尻が斜め下方向へ出っ張っているのです。

こうしてみると白鵬自身(知ってか知らずかは別として)身体の使い方をよく心得ているといっていいでしょう。まったく同じことが先輩横綱である朝青龍にもいえたのです。彼も立ち合いの鋭さやその踏込には定評がありました。白鵬と同等かそれ以上といってもいいかもしれませんね。

並みの選手ではモノにできない!?身体の機能

しかしこの【骨盤前傾】動作、一般人も含め並みの人間ではモノにすることがほとんどできません。というか骨格の特性によってできるかどうかがほぼ左右されるといってもいいでしょう。さらに静止状態で前傾位にできたとしても、それを動作中に維持することはさらに難しいのです。

アフリカ系アメリカ人やジャマイカ人、つまり黒人アスリートなら難なくこなせます。なにせ彼ら/彼女らは元々そういった骨格形態なのですから。

白鵬がこの骨盤傾斜角を備えられた背景には彼の持って生まれた上手に身体を使える才能と、その能力を一気に高めたモンゴルという国での生い立ちが深く関わっているといえるでしょう。

他の力士も驚愕!その【股割り】姿勢

以前白鵬の股割りをTV番組で観たことがあります。彼は今までの力士のそれとはまったく違う股割りをしていました。白鵬はバレリーナが行うのと寸分違わぬような股割りをしていました。骨盤がしっかりと立ち(つまり前傾)背筋を伸ばし気味にしながら、ちゃんと股関節から折って(屈曲して)身体を倒していました。

このやり方はハムストリング(腿裏)、特に内側の半腱・半膜様筋がしっかり伸びなければできない方法です。ハムストリングは骨盤にある坐骨からでて膝裏に付いていますが、通常はその膝裏近辺しか伸びませんが、バレリーナ等の身体を上手に使える専門家はお尻の付け根付近をしっかりと伸ばすことができるのです。もちろん白鵬もその伸ばし方ができています。

残念ながら日本人力士はこの方法で股割りができません。彼らの腿裏は白鵬に比べて十分伸ばせないため、立ち合いの瞬間は股関節を十分に曲げる動作が入りずらく上半身を丸くすることで身体を倒しているだけなのです。これでは【骨盤前傾】動作ができるはずもなく太腿の筋力頼みとなる立ち合いは不安定にならざるを得ません。

『股関節のロッキング』効果が得られないため太腿(大腿四頭筋)であの重い体重を支えなくてはなりません。前述の湯浅教授によれば力士の脚力は一般人の1.1倍しかないということ、つまり重い身体を支えるための足腰が一般人とほぼ変わらないのですからこれでは安定のしようがありません。

白鵬は『股関節のロッキング機構』という身体の仕組みを上手に利用して身体を動かしているのです。片やその『ロッキング』を生かせず、支えきれない太腿の筋肉で自重を支える日本人力士達、どちらが有利かは推して知るべしです。

乗馬によって培われた身体の上手な使い方

乗馬

とあるメディアの取材で母タルミさんが以下のように述べていました。

「モンゴル馬は機動力はありますが、サラブレッドより小さい種です。ダヴァーは少年のころから乗馬がとても好きだったが、そのダヴァーを乗せられるモンゴル馬はたぶん、もうおりません。ダヴァーも「自分が乗れる馬はなくなってしまった」・・・

出典:http://www.asahi.com/edu/student/tensai/TKY201102280123.html

鞍上(あんじょう)のメカニズム

白鵬、朝青龍ともに共通するのは少年時代から馬に乗ることが好きだったということです。

乗馬は進行方向に伸びた鞍(くら)に脚を開いて跨(またが)りますが、これはちょうど人の指でいう第1指、つまり親指の根元の関節であるMP関節というのに類似します。別名「鞍関節」ともいいますが、親指は他の4指と違い根元を中心に実に自由に動きます。

実は我々人間が馬に乗るときは馬の歩き方(常足:なみあし)に合わせる必要があり、その動きは骨盤の前傾・後傾動作を伴わないます。というかこの動作がないと馬の歩くタイミングに自らの身体を合わせられないのです。

馬上だと人は鐙(あぶみ)に両足をかけてほぼ固定するため歩く時のように踏み出す動作を使えません。馬が前に進む際、脚を動かして馬と調和できない(馬の動きに身体を合わせられない)場合、馬上の人がとる行動は骨盤の【前・後傾斜運動】しかないのです。

馬上の動作を床でやってみよう!

ちょうどお尻歩きのイメージです。脚が使えない状態で床の上を前進する場合、骨盤を上手く使うとうまく前に進めます。骨盤が上手に動くためには寝ている後傾状態よりは起きている前傾状態がベストです。

しかしこの骨盤前傾・後傾動作が大きくなってしまっては自分の腰がやられてしまいます。ですから中間位までの動きで留めておき、前傾~中間位(後傾まで来ない途中までの動き)の動きで馬の歩行と調和させているのです。

因みに鞍の上で骨盤を立てられるポイントは左右にある坐骨に体重を乗せる感覚を持つことです。坐骨に上半身がしっかりと乗せられれば身体に“芯”ができてそれを基本にして身体を動かせます。中心が頭で理解できていれば例えズレた場合でもすぐ元に戻せるというわけです。

ブレても瞬時に戻せる身体の芯

白鵬は相手の強い当たりに対してはもちろん跳ね返す能力は持ち合わせていますが、それ以上に相手の力を吸収することを重視していると考えられます。

さらに吸収に際してズレた身体の芯を瞬時に元に戻せる能力を有しているため、他の力士に比べバランスを崩すことがほとんどありません。

【骨盤前傾】を維持することができると深部筋群である【大腰筋】が発達します。逆の言い方をすれば【大腰筋】が使えるようになれば【骨盤前傾】は容易なのです。日本人アスリートにはこの大腰筋が動く感覚がありません。力士は特にお腹周りがでっぷりしているためその感覚は得にくいのです。

まさに相撲界を超越した超人!?

強さの秘密とは

白鵬のこうした能力は母国であるモンゴルでの生活や生き方によって育まれたと考えていいでしょう。特に乗馬はその最たる要因です。

乗馬によって深部筋である【大腰筋】が柔軟且つ強靭に発達したことで、脚を出すより前に同側の骨盤の始動により身体を動かす感覚が発達したことが横綱の強さの秘密でもあります。

馬上では左右にある鐙にそれぞれの足を乗せているために自由に脚を動かせません。したがってまず初めに動かそうとする側の骨盤を「ムギュッ」という感じで前にちょっと動かしてあげるとその直後に脚が前に出るという感覚、これが骨盤が動く感覚なのです。

日本人力士は足を先に出してしまう感覚(実はこれが普通なのです)ですが、白鵬は「はっけよ~いのこった!」の合図で(感覚的には)足より先に同側の骨盤をちょっとだけ動かしてついてくる足の動きに弾みがつくようにしているわけです。

足を先に動かすよりも身体の中心が先に動くので“ムチのしなり”効果で速度がギューンと増すのですね。現役力士は元より多くの日本人アスリートは横綱のこの上手な身体の使い方を真摯に学ぶべきだと思います。

まとめ

明るく照らす未来

我々が持つ力士のイメージは鈍重ではあるけど力が強くどっしりとして山のごとく動かない=だから強い!というものでした。

しかし白鵬は我々が持つ生来の力士イメージとはかけ離れた“スーパーアスリート”であったことが彼の動き、特に立ち合いの爆発的な速さから証明されたといってもいいでしょう。

力があるイコール柔軟性がないという考え方も白鵬関にはまったく当てはまりません。重心をわずかに動かし相手を紙一重でかわしながら弱点を素早くつくときの動作は野生動物かと見間違う程です。

こうしてみると横綱の地位にいることが当然であり今後どこまで優勝回数や連勝記録を伸ばすかにさらに期待が集まります。

あとは是非、今後横綱を上回るようなライバルが現れることを願って今年最後の大相撲を見届けようではありませんか!

TM鈴木

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